物体の色や質感を自在に操る「空間拡張現実感(SAR)」の技術とは
空間拡張現実感とは何か
空間拡張現実感(SAR)は、プロジェクタなどを用いて実世界に付加情報を提示する拡張現実感技術で、その応用はプロジェクションマッピングとして広く知られています。
SARの研究では、建物などの形状に合わせて投影映像を変形させるだけでなく、カメラで撮影した映像を基に、動いている物体や変形する物体にズレないように投影する技術も研究されています。それだけでなく、物体の色彩を補償する投影を行うことで、見た目の色彩や質感を変化させる見かけの操作も研究されています。
見かけの操作を実現する技術
見かけの操作には、所望の色彩に変換する光学技術や、映像の位置合わせをするための幾何変換などが必要です。位置合わせは、投影された映像が撮影画像のどこに写るのかを調べることで実現できますが、マジックミラーを用いてカメラとプロジェクタを光学的に同じ位置に配置することで、この問題を簡単にすることができます。このような仕組みを用いると、物体の位置にかかわらず、撮影された画像の所望位置に映像を投影することができるようになります。実時間での色彩操作を実現する方法としては、物体の反射率の推定とカメラとプロジェクタを用いたフィードバック制御という方法が採用されています。
最近ではさらに進化し、複数のプロジェクタで投影して、物体を見る角度で色彩や質感を変えることも可能になっています。また、赤い物体を青に変えられないという光学的な限界がありますが、人間の脳の錯視現象を利用して青く見せるという研究も行われています。
エンタメ、工学、医療など多様な分野で応用可能
SARは、エンターテインメントで応用できるだけでなく、例えば美術館では劣化した美術品の美観を工学的に回復することができます。また、産業分野では工業製品のデザインを行う際、デザイン補助ツールとして利用できます。医療分野では、二色型色覚や白内障の視覚補助技術として応用することもできるなど、多方面での活用が期待されています。
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和歌山大学 システム工学部 システム工学科 教授 天野 敏之 先生
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