粘菌の動きの性質「興奮性」から生物の自発性を探る
粘菌に見る興奮性
「キイロタマホコリカビ」という細胞性粘菌が集合するときの動きを調べることで、生物の自発性を探る研究が行われています。この粘菌は飢餓状態になるとcAMPという物質を出して、それを検知して集合するのですが、それを受け取った細胞もcAMPを出します。それが連鎖的に積み重なると、確率的だったcAMPの生産が爆発的に増え、波状にその反応が伝わります。その様子はまるで1つの個体のようです。この波の伝播は「興奮性」という性質で伝わっていきます。興奮性とは、準備状態、興奮状態、不応期が順番に繰り返される性質です。
興奮性の波の1つ「らせん」とは
その波は、同心円状のもののほかに、もう1つ、らせん状になることがあります。らせん波は、何かのきっかけで同心円状の波の一部が壊れることで始まります。そこでは準備状態、興奮状態、不応期の3つが1カ所で隣り合わせになる不思議な構造ができあがります。そうなると、この場所では不応期がすぐに準備状態に入るため、常に興奮できる状態が供給され続けることになり、らせんの回転が自己充足的に続くのです。
らせんの中心は特別な細胞ではなく、具体的にらせんができる原因はまだはっきりしていません。また、らせんの数でこの粘菌が増えるための子実体(しじったい:キノコ状の構造)の大きさが決まることが知られています。
自己組織化と生物の自発性
興奮性は粘菌の集合においてだけでなく、化学物質や巨大ミツバチの個体の集団でも見られます。このハチは敵を追い払うために各個体が羽を震わすのですが、その震えがらせん波で伝わるので、全体としてはあたかも大きな生物のように見えるのです。
興奮性の動きは、集団での秩序立った振る舞いに見えても、それは個々の細胞などの素子の、でたらめな応答の相互作用から生まれます。これを自己組織化と言います。同様のダイナミクスは単一細胞レベルでも起こっていることが最近わかってきており、生物の自発性を理解する糸口と考えられています。
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