熱の伝わりや生物の動き 自然現象を表す「偏微分方程式」

熱の伝わりや生物の動き 自然現象を表す「偏微分方程式」

熱の「伝わり方」を表す熱方程式とは

一本のまっすぐな針金の真ん中を炎で熱して、その直後に針金の温度を計測するとします。針金の温度を縦軸、針金の位置を横軸に取ったグラフは、真ん中が一番高い山型を描きます。その後時間がたつにつれて、グラフの山形はだんだん平らに近づいていきます。このような空間を熱がどのように伝わるかという温度分布の運動を数式で表したものが「熱方程式」です。熱方程式は、物理現象を表すのに用いられる「偏微分方程式」の一つで、多くの数理モデルに現れています。

単純化モデルから考える

針金の温度分布は現象を単純化した一次元のモデルであるため、それを表す熱方程式はシンプル(線形偏微分方程式)です。針金の両端での分布の条件や初期分布を適切に決めれば、熱方程式をみたす函数(解)が存在すること、およびその解が一つであること(一意性)がわかります。しかし、平面や空間など二次元、三次元の温度分布を考える場合や、実際の自然現象を表そうとすると、より複雑な項(非線形項)を式に加えなければなりません。このような複雑な偏微分方程式(非線形偏微分方程式)について、解が存在するのか、解が存在するとして一意性があるのかということが研究されています。

偏微分方程式で生き物の動きも表せる

熱と同様に、時間の経過とともに拡散するものの現象の数理モデルにおいて、熱方程式をはじめとする拡散方程式が現れます。あるアメーバ状の生物が散らばったり集まったりする動きも、その質量密度を分布とした拡散方程式と、引き合う力を表す非線形項を使って表されます。例えばプレパラートのような二次元の限られた領域で考えると、初期分布の質量がある値よりも大きければ「集まり」、小さければ「散らばる」ことが方程式から導かれます。しかし、三次元以上についてはそういった値があるのか、また、より一般の状況において解が存在するのかなどがまだわかっていません。解の存在や解の一意性についての研究が進められています。

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熊本大学 理学部 理学科 准教授 勝呂 剛志 先生

熊本大学 理学部 理学科 准教授 勝呂 剛志 先生

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数理解析学、偏微分方程式論

メッセージ

自由落下やばねの振動といった物理の教科書に出てくる現象だけでなく、例えば「針金の温度分布」のように、世の中にありふれた現象も数式で表せるのが数学の強みです。もちろん単純化という操作が入ってはいますが、実際の現象から多少ずれたとしてもそれほど変なことは起こらないという理論も、数学で保証できます。数学は、ものごとの何が核心なのかを表現できる学問です。普段の生活の中のありふれた現象がどういうメカニズムで起こっているのか、そんな疑問を持って高校数学や物理に取り組んでみてください。

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