21世紀の生物学が抱える問題の解決に不可欠なバイオイメージング
21世紀の生物学の課題
20世紀の生物学における発展の多くは遺伝子に帰着できる問題でした。そして、遺伝子だけに原因を帰着できない問題をどう扱うかがこれからの課題になっています。
大きな問題は3つあります。まず、遺伝子が同じ細胞でも、一つひとつの細胞の振る舞いは異なるという事実です。この問題は、例えば耐性遺伝子を獲得しないのに抗生物質での処理を生き延びてしまう細菌がいることと関わりがあります。2つ目は、免疫系の問題です。私たちの体には体内に入ってきた外敵を認識し除去する機構があります。しかしアレルギーや自己免疫性疾患は周りの環境との相互作用が大きく関係し遺伝子だけでは説明しきれません。最後が「細胞の初期化」です。iPS細胞は、当初ある4種類の遺伝子を組み込むことで作りだされましたが、現在ではRNAなどを導入することでも細胞が初期化することがわかってきました。つまり細胞の初期化は遺伝子の有無だけでは決まらない複雑な過程なのです。
バイオイメージングを活用して問題に取り組む
これらの問題を考えるには、「バイオイメージング」という技術が欠かせません。これは蛍光タンパク質を作る遺伝子を組み込んで特定の分子を可視化し、一つひとつの細胞の中での変動などを時間を追って計測できる技術です。この技術で例えば哺乳類の受精卵を観察し画像解析すると、分裂が速いものや遅いものなど、1個1個の受精卵に個性があることがわかります。こうした解析によって、細胞分裂にパターンがないかが探られています。以前は観測できなかった生命の複雑でダイナミックな側面が、解析によって明らかにされようとしているのです。
新しい局面に入った生物学
近年、バイオイメージングが仲介することによって生物学に、情報技術や物理学、数学が使われるようになってきました。このように新しいステージに入った生物学の研究で解明される問題は、病気の治療に応用が期待されるほか、生き物のように低消費エネルギーで機能する人工的なシステムへの応用も考えられています。
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