安価で調達しやすい卑金属が、「環境によい化学反応」を促進する
実は凄い力を発揮する卑金属
金やプラチナなどが「貴金属」と呼ばれるのに対し、ニッケルやコバルトなど簡単に酸化する金属は「卑金属」に分類されます。分類名からして低価値に見られている卑金属ですが、「クラスター」と呼ばれる数ナノメーター以下の超微粒子にすると、触媒として非常に高い活性を示します。
この「卑金属クラスター触媒」を上手に活用すれば、水素を効率的に取り出したり、二酸化炭素を何らかの有機化合物に変えたりと、「環境によい化学反応」の実現が見込まれます。
形を変えて貯蔵した水素を取り出す
脱炭素社会実現のための切り札として水素エネルギーが注目されています。ただ、700気圧以上で圧縮した水素を貯蔵・運搬するには、強度も安全性も高い非常に高価なタンクや設備が必要です。
そこで水素を「アンモニアボラン」や「水素化ホウ素ナトリウム」などの水素化化合物として貯めておき、使うときに触媒などで化学反応を起こして水素を取り出す研究が進んでいます。発火の危険性が低く、気体よりもエネルギー密度が高い液体燃料として扱えるので、大量の水素を安定的に保存するのに最適な手法なのです。
アンモニアボランから水素を取り出す場合、水素と一緒に出てくるアンモニアが燃料電池の劣化を招くため、水素中のアンモニア濃度を0.1 ppm以下にしないといけません。そこで、反応条件を工夫して水素中のアンモニアを低減する研究がなされています。
何度でも使えて機能も落ちない高性能な触媒を
高い触媒機能を発揮する卑金属クラスターですが、熱によって凝集して粗大化すると、触媒としての機能が低下してしまいます。これを解決するため、ナノサイズの穴を持つゼオライトを支持体にして、クラスターの凝集を防ごうという研究がなされています。また、層状複水酸化物の層間に卑金属クラスターを形成させた多孔質触媒の開発も進められています。
安価に、そして容易に原材料を調達できる卑金属のナノクラスター触媒が実用化されれば、水素エネルギー活用が大幅に前進することになるでしょう。
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先生情報 / 大学情報
崇城大学 工学部 ナノサイエンス学科 准教授 井野川 人姿 先生
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