シャボン玉はなぜ丸い? 最適な形を探求する「微分幾何学」
等周不等式
平面において、与えられた長さをもつ閉曲線のうち、囲む面積が最大となる図形は円です。これは等周不等式と呼ばれます。直感的には明らかなように思われますが、これを数学的に証明することは簡単ではありません。この問題が難しい理由は、長さが与えられたとき、その長さをもつ閉曲線が無数に存在することから来ています。
エネルギーが最小の形が最適な形
世界に存在するさまざまなもののうち、自然にできているものの多くは、ある種のエネルギー的な安定性をもちます。例えば、ワイヤーを折り曲げて作ったフレームに石けん液をつけて膜を張らせるとき、ワイヤーフレームに張る石けん膜は、そこに働く表面張力のエネルギーが最小になるよう、面積も最小になる形で安定します。例えば、2本の円形のワイヤーフレームを平行にしてその間に石けん膜を張らせると、どんな形になるでしょうか。円柱のような膜が張るだろうと思われがちですが、実際は、膜の表面はとっくりの首のように内側にくびれた形になります。それは、これが膜の表面積を最小にする形だからです。シャボン玉が球面なのも、同じ体積を囲む曲面の中で球面が最も表面積が小さく、表面張力のエネルギーが最小になる形だからです。
球面以外のシャボン玉も存在する!?
では、球面が最適な形だとすると、球面以外のシャボン玉は存在しないのでしょうか。実際には、球面以外のシャボン玉を見たことはないでしょうが、曲面が自分自身と交差したときすり抜けると仮定すると、球面以外にもシャボン玉の数学モデルを作ることができることが証明されていて、その形は、一つ穴のドーナツのような形になります。
ある種の条件の下で最適な形を探すという学問を、幾何学的変分問題と呼びます。無限の自由度をもつものの中から最適な形を探すことは極めて困難な問題ですが、エネルギー的に安定した形は、無駄がなく洗練された美しさがあります。数学というと、数字だけを扱う無機質な学問のようにも思われがちですが、実は極めて創造的で夢のある学問なのです。
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