人類学的な見地で「法」を観察すると
地域固有の秩序を研究する法人類学
「法」を研究する際、法人類学と法学とでは、法に対するアプローチの仕方が異なります。法学では、主に国家の法の解釈や裁判所の判例などを研究しますが、法人類学では、地域に存在する固有の規範や秩序を研究していきます。
一例を挙げると、ケニアでは、国の司法制度がありますが、それと並存する、村などで定められた「法」が機能しています。殺人事件が起きれば加害者は国の法律に基づいて裁かれますが、同時に事件の起きた村で、加害者の親族が被害者の親族に、賠償として多くの家畜を支払う手続きが行われることがあります。国が自分たちの手の届かないところで加害者を裁くだけではなく、当事者の親族が主体となって、深刻な事態に向き合っているのです。
国の法に頼らない紛争解決もある
このように、紛争処理や犯罪解決を国の法や裁判だけに頼るのではなく、ほかの形でも実現している例は世界各地で見られます。これは「オルタナティブ・ジャスティス」と呼ぶことができますが、最近では先進国でもその重要性が認められてきています。日本でも2007年に、裁判外紛争解決手続きの利用の促進に関する法律であるADR法が施行され、土地や家族間の問題、医療トラブルといった民事の紛争については、法務省の認証を受けた民間の紛争処理機関が裁判外で解決できるようになりました。公的な裁判制度と民間の機関とで連携して紛争解決にあたろうという動きです。
応報的司法から修復的司法へ
刑事事件においても同様の変化が見られつつあります。法学者たちの間で最近言われている「修復的司法」もその一つです。刑事裁判では加害者を裁くこと(応報)を重視してきましたが、世界各地の多様な犯罪解決方法から学び、被害者への賠償や癒やしを重視した刑事司法を考えようという動きです。こうしたオルタナティブ・ジャスティスの可能性を考えるうえで、法人類学の研究成果から学ぶことが数多くあるのです。
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