法律が改正されるのはなぜ? 刑罰を科す意味とは
刑罰は副作用の強い医薬品?
私人間のもめ事を当事者間で処理する「民法」に対して、民法では処理しきれない重大な問題(犯罪)について、国による制裁(刑罰)を予定しているのが「刑法」です。つまり、刑法は、ほかの手段では解決できない場合に登場する、いわば最終手段のようなものです。刑罰は、ときに「副作用の強い医薬品」に例えられることがあります。刑法で科される刑罰には、高い効果がある代わりにデメリットもあるのです。
重罰化の功罪
飲酒運転が原因で痛ましい交通事故が起きたことを教訓に、「危険運転致死傷罪」という新たな処罰類型が2001年の刑法改正で追加されました。それまでの法律では罰則が軽いと考えた遺族や世論の後押しを受け、飲酒や薬物などの影響で正常な運転ができない状態で自動車を運転し、人を死亡させた場合を特に重く処罰する規定が設けられたのです。この改正法が施行されてしばらくは、確かに飲酒運転が原因で起きる交通事故は減りました。しかし驚くことに、ひき逃げなど、より凶悪なケースが増えてしまいました。これは、飲酒運転に対する処罰が厳しくなったことで、「酔いをさましてから出頭したら刑が軽くなるかもしれない」という心理が働き、事故を起こしてすぐに救助すれば助かったかもしれない命が失われてしまうということを意味します。
制裁の緩和か対象の拡大か
また、かつて窃盗罪には、懲役刑という重い刑罰しか準備されていませんでした。それが2006年から、罰金刑も選択できるように法律が改正されました。一見すると、刑罰が軽くなったようですが、そうではありません。この改正には、それまで不起訴で済まされていた万引きのような軽微事案をも処罰対象にしようという意図があります。
法律も時代の流れを受けて変化しています。法律の改正には、常に何らかの意図が込められています。刑罰を科すことの意味やその影響を考えながら、法改正の意図を読み解くことも法学の重要な学びのひとつです。
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