講義No.11309 法学

特殊詐欺の「受け子」をどう裁く? 刑法の成り立ちと奥深さ

特殊詐欺の「受け子」をどう裁く? 刑法の成り立ちと奥深さ

若者の特殊詐欺への加担

特殊詐欺をめぐる刑事事件が跡を絶ちません。特殊詐欺において、被害者から現金を受け取る役の「受け子」は、SNSなどを通して募集され、高校生を含む若者が高い報酬を目当てに詐欺に加担するケースが目立ちます。捜査では、警察と被害者の協力で「だまされたふり作戦」が実施され、接触しに来た受け子が逮捕されています。このとき、受け子が「指示された通りに動いただけで、だますつもりはなかった」「直接だましたわけではないから、罪は軽くなるはずだ」といった主張をしたら、認められるでしょうか?

受け子の罪責を考える

刑法には、故意がない行為は罰しないという原則があり、裁判で受け子を詐欺罪に問うには、詐欺の「故意」を立証しなければなりません。そのためには、まず「故意」に関する理論的な解釈が必要です。詐欺罪であれば、被害者をだますことを分かっていて、だますことになってもいいと内心で許容していれば故意が認められます。その上で、別人を装っていたこと、作業に見合わない高額な報酬を得ていたことなどの事情を積み重ねることで、実際の受け子の故意を認定します。
また、刑法には、犯罪全部の実行を行っていなくても「共同正犯」として罰するという共犯理論がありますので、受け子も指示役なども同じように「正犯」として罰せられるのが裁判所の判例です。

論理的に考える

さまざまな刑事事件を目にすると、罰せられて当然だと感じることもあれば、罰するのはかわいそうだと感じることもあるでしょう。しかし、法学は、処罰すべきかどうかといった結論から出発するのではなく、論理的な思考の積み重ねにより、しかるべき帰結を導き出すものです。犯罪の成否を決する刑法理論の解釈も、現実の事象を刑法理論にあてはめる事実認定も、体系的・論理的な思考が不可欠です。特殊詐欺の受け子の罪責を考える際には、詐欺罪とは何かという各論の視点からのみならず、あらゆる刑法犯に共通する「故意」や「共同正犯」といった刑法総論の論点も学びますので、刑事法学の集大成を味わえます。

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東海大学 法学部 法律学科 准教授 山中 純子 先生

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メッセージ

私は、検事や弁護士として法律実務に携わった後、刑法の研究者になりました。研究では、実は、中学生の頃に趣味で始めたドイツ語が役立っています。学生時代には、ドイツへ短期留学したり、さまざまな大学や学部から学生が集うドイツ語合宿に参加したりして、法学以外の世界を広げました。その学びのおかげで、働き始めてからドイツへ留学する機会を得た上、ドイツ語を活かして刑法の研究をするという新しい道も拓けました。
関心のあることや好きなことを追究していれば、学問的な成長や自分の将来にもつながるということを知ってほしいです。

先生への質問

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