講義No.10821 法学

刑法における故意と錯誤について

刑法における故意と錯誤について

故意と錯誤

刑法とは犯罪と刑罰に関する法を言います。刑法は犯罪行為をわざとした「故意犯」の処罰が原則で、不注意でしてしまった「過失犯」を処罰するのは例外的です。そのため、どんな場合に犯罪行為が故意で行われたと解釈するかは、すべての犯罪に共通する重要な問題です。例えば、他人の傘を自分の傘と「勘違い(錯誤)」して持ち去ったAは故意に盗んではいないと解釈され、他人の傘でも「いつか返せばよい」と法律の解釈を「勘違い」して持ち去ったBが故意に盗んだと解釈される点では、法律家の中ではほぼ異論は見られません。

故意かどうかが争われる錯誤とは?

これに対して、「故意」であると解釈するのかどうか、非常に法律家の意見が分かれる問題に、「誤想防衛」や「真実性の錯誤」があります。「誤想防衛」とは、正当防衛の勘違いを言います。例えば、雨上がりの夜の公園を散歩中に、凄い形相で傘を振り回しながら駆け寄る男性を見て、襲われると誤解したXが持っていた傘でその男性を殴打し、男性に怪我を負わせたが、実は男性は帰宅を急いでいただけであった場合などです。
「真実性の錯誤」とは、例えば、記者Yが「政治家Cは業者Dから賄賂を受けて便宜を図っている」との噂を真実と信じて週刊誌の記事にしたが、裁判でその真実性を証明できなかった場合などを言います。
これらの場合に、XやYに故意を認めるかどうかが問題です。

「疑うことのできない絶対の権威はない!」

通説は、「誤想防衛」の場合にXが軽率であっても「故意」ではないと解釈するのに対し、「真実性の錯誤」の場合にYが軽率であれば「故意」であると解釈します。しかし、通説は、「正当防衛」と「真実性の証明」を、違法性を否定する事由として同様に取り扱うのに、その事由が存在すると軽率に信じた「誤想防衛」と「真実性の錯誤」を同様に取り扱わない点で矛盾します。果たしてこれらの勘違いを理由に故意ではないと解釈しても良いのか、真実性の証明は違法性を否定する事由として良いのか、通説の考えを疑うことが学問の出発点です。

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京都産業大学 法学部 法政策学科 教授 中村 邦義 先生

京都産業大学 法学部 法政策学科 教授 中村 邦義 先生

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メッセージ

あなたが、大学で法律について学びたいと考えているなら、社会で起きている様々な事柄に関心を持つようにしてください。新聞を読んだりテレビやインターネットのニュースを見たりして、「この紛争はどうして起きたのだろう」「解決するにはどうすればいいのだろう」など、考えをめぐらせることも大切です。
図書館などを利用して、複数の新聞の社説を読み比べしてみるのも、視点の違いがわかって面白いでしょう。法律には哲学が関係するところもあるので、たとえば『ソフィーの世界』などの本を読んでみることもお薦めします。

先生への質問

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京都産業大学は、文系・理系合わせて10学部18学科、約15,000名がひとつのキャンパスで学ぶ総合大学です。この一拠点総合大学の利点を活かし、実社会で活きる高度な専門知識とスキルを養うとともに、学部を超えた知の交流により総合的かつ柔軟な学びを展開しています。各分野の第一線で研究を続ける教員たちから学ぶのは、実社会で強みになる専門知識。大講義だけでなく、対話を重視した少人数クラスや実践的な演習で、次世代を担うに足る「むすんで、うみだす。」力を身に付けていきます。