刑法における故意と錯誤について
故意と錯誤
刑法とは犯罪と刑罰に関する法を言います。刑法は犯罪行為をわざとした「故意犯」の処罰が原則で、不注意でしてしまった「過失犯」を処罰するのは例外的です。そのため、どんな場合に犯罪行為が故意で行われたと解釈するかは、すべての犯罪に共通する重要な問題です。例えば、他人の傘を自分の傘と「勘違い(錯誤)」して持ち去ったAは故意に盗んではいないと解釈され、他人の傘でも「いつか返せばよい」と法律の解釈を「勘違い」して持ち去ったBが故意に盗んだと解釈される点では、法律家の中ではほぼ異論は見られません。
故意かどうかが争われる錯誤とは?
これに対して、「故意」であると解釈するのかどうか、非常に法律家の意見が分かれる問題に、「誤想防衛」や「真実性の錯誤」があります。「誤想防衛」とは、正当防衛の勘違いを言います。例えば、雨上がりの夜の公園を散歩中に、凄い形相で傘を振り回しながら駆け寄る男性を見て、襲われると誤解したXが持っていた傘でその男性を殴打し、男性に怪我を負わせたが、実は男性は帰宅を急いでいただけであった場合などです。
「真実性の錯誤」とは、例えば、記者Yが「政治家Cは業者Dから賄賂を受けて便宜を図っている」との噂を真実と信じて週刊誌の記事にしたが、裁判でその真実性を証明できなかった場合などを言います。
これらの場合に、XやYに故意を認めるかどうかが問題です。
「疑うことのできない絶対の権威はない!」
通説は、「誤想防衛」の場合にXが軽率であっても「故意」ではないと解釈するのに対し、「真実性の錯誤」の場合にYが軽率であれば「故意」であると解釈します。しかし、通説は、「正当防衛」と「真実性の証明」を、違法性を否定する事由として同様に取り扱うのに、その事由が存在すると軽率に信じた「誤想防衛」と「真実性の錯誤」を同様に取り扱わない点で矛盾します。果たしてこれらの勘違いを理由に故意ではないと解釈しても良いのか、真実性の証明は違法性を否定する事由として良いのか、通説の考えを疑うことが学問の出発点です。
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先生情報 / 大学情報
京都産業大学 法学部 法政策学科 教授 中村 邦義 先生
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