テラヘルツ波が開く、物質科学の新たな地平

テラヘルツ波が開く、物質科学の新たな地平

電波と光の性質を併せ持つ

電磁波は、周波数帯によって異なる性質を持ち、それを生かした利用がなされています。周波数の低い方が電波であり、高い方が光です。光は直進性を持ち、レンズやミラーで扱うことができます。それに対して電波は拡散するため、大きなアンテナなどを必要とします。
電波と光の中間に位置するのがテラヘルツ波です。テラヘルツ波は、光のように小さなスポットに集約できる一方で、電波のように物質を透過する性質を持つため、物質の詳細な特性を非破壊的に調べられます。テラヘルツ波の生成方法は、連続波も、断続的なパルス波も、得意な周波数帯が異なる複数の手法が存在します。そのそれぞれについて、高強度化に向けた研究開発が、日々進められています。

テラヘルツ時間領域分光法

テラヘルツ波を用いて物質の性質を調べる方法に、パルス波を用いるテラヘルツ時間領域分光法があります。パルス波なら、強い電磁波を一瞬だけ当てて、その後に起こる高速な変化を追いかけることができます。また、パルス波にはさまざまな周波数が含まれていて、さまざまな周波数の応答を一度に調べられます。調べる対象に合わせて、偏光や周波数、パルス幅をカスタマイズし、物質の性質や対称性の破れを明らかにします。

新しい物性の発見と応用への期待

物質の物理的特性を理解するための重要な概念に「素励起」があります。素励起とは、物質の基底状態に少量のエネルギーを与えることで生じる励起状態です。例としては、伝導性や熱特性の理解に不可欠なフォノン、磁気特性に関与するマグノンがあげられます。テラヘルツ波のエネルギー帯は、素励起に必要なエネルギーと同程度なので、特定の素励起だけを調べたり作り出したりできます。
この技術は、特殊な超伝導体や特異な対称性を持つ物質の特性解明において重要な役割を果たします。特定の素励起にカスタマイズした測定は、新しい物質の発見や特性の解明に大きく貢献します。こうした研究は、物質科学に新しい視点を提供し、未来の技術革新につながるものです。

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先生情報 / 大学情報

九州大学 理学部 物理学科 准教授 中村 祥子 先生

九州大学 理学部 物理学科 准教授 中村 祥子 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

光物性、低温物理学

先生が目指すSDGs

メッセージ

物性を研究する学科は物理学科以外にも複数あります。その中で物理学科の特徴は、物理学のさまざまな分野の研究者が集まり、共通の物理学的アプローチから相互に影響を与え合えることです。他分野の知見を取り入れることで大きな進展が得られ、新たな道が開かれることが多々あります。例えば、超伝導の理論から着想を得た南部陽一郎博士の理論がヒッグス粒子という素粒子の理論の形成に結び付き、逆に、ヒッグス粒子に相当する素励起が超伝導の実験で観測されています。物性に関心があるなら、ぜひ本学の物理学科で一緒に研究しましょう。

九州大学に関心を持ったあなたは

九州大学は、教育においては、世界の人々から支持される高等教育を推進し、広く世界において指導的な役割を果たし活躍する人材を輩出し、世界の発展に貢献することを目指しています。また、研究においては、人類が長きにわたって遂行してきた真理探求とそこに結実した人間的叡知を尊び、これを将来に伝えていきます。さらに、諸々の学問における伝統を基盤として新しい展望を開き、世界に誇り得る先進的な知的成果を産み出してゆくことを自らの使命として定めています。