同じ景色を見ている時、私たちは本当に同じものを見ているの?
人によって景色は違って見えている
気の合う友人と「それ、わかる~!」と盛り上がっている時、本当に同じものを見て、同じように感じているのでしょうか? そもそも同じ人間がいない以上、同じ景色を見ても、人によって見えている色も、受け取る印象も違うのが当然なのに、わかりあえるのは不思議なことです。
かつて、進学や就職の際に色覚を調べていた時代には、「要検査」と言われる人が国内だけで何百万人もいました。文化によっては、虹の色を6つや3つと表現することも知られています。それほど、色のとらえ方は多様で、単純にどれが正常で、そうでないから異常などと、2つに分けられるものではありません。
見え方は何によって決まるのか?
一般的に、色覚は遺伝によって決まると考えられています。遺伝的な錐体(網膜の光センサー)の違いで、赤や緑を鋭く弁別する人としない人がいるので、実際には人によって違った色を見ていることが知られています。しかし、色覚を切り口にした視点でDNA配列を調べたり、研究参加者が実際に色を見ている時の心理量や脳の活動を調べていくと、ものの見え方の違いは先天的な遺伝要因だけでなく、経験によって作られる後天的な神経回路や脳の活動も大きく影響していることがわかってきました。
多様性を前提に誰もが生きやすい社会を
私たちは普段、実はクラスメイトが違う色を見ている、などということを意識せずコミュニケーションができます。一人ひとりのセンサーに応じた別々の色を脳にインプットするのに、同じ「赤」という言葉でアウトプットする過程には、脳内でそれを可能とする情報処理を行っている可能性があります。遺伝の違いを越えて互いに理解しあう過程で、脳がどのような働きをしているのかを証明しようという研究が進められています。
社会は多数派のためにデザインされがちですが、多様な人間がわかりあう過程を解き明かすことで、多様性を前提とした誰もが生きやすい社会への展開が期待されます。
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九州大学 芸術工学部 芸術工学科 未来構想デザインコース 准教授 平松 千尋 先生
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