小さいけれど速く安全に! 高速艇の未知なる可能性を科学する
造船大国日本の主役は大型船だった
日本はかつて造船大国として世界に名をはせていました。わが国では1900年代からより大きな規模の船を造るための研究が進み、早くに基礎学問としての船舶工学が確立されました。1970年代には世界の造船の半分を超えるほどでしたが、その後は下降をたどりました。しかし現在でもトップクラスの造船技術を誇っています。一方、モーターボートなどに代表される、長さ10m未満で10人ぐらいまでが定員のいわゆる「高速艇」は、大型船ほどは需要が多くないため、これまでは経験則で造られがちでした。
高速艇の特徴をふまえた流体計算が重要
そのため、高速艇をどう造れば性能がアップするのか、航行時の不具合をどう回避できるかなど、工学的な研究課題がまだ多くあります。大型船と高速艇のような小型船で決定的に違うのは、推進する船体が水面に対してどう力を与え、その力で変形した水がまた船体にどんな影響を与えるかという「流体」の影響で、これを運動学と流体力学に基づき計算する必要があります。航行する大型船の周りには水しぶきがほとんど上がっていませんが、船体の大きさに比べてスピードが速い高速艇は激しく水しぶきを上げています。だから高速艇は水が飛び散るようなモデルの計算式にしないと、ほしい「流れの場」を表現できません。
揺れを抑え、どうすれば安全航行できるのか
また、船の揺れ方は船の大きさと形に関係します。波の長さに対して船が小さければ、船は波の中に収まってしまうので波に乗って揺れやすくなります。波の長さより船のほうが大きければ、船は揺れにくいので、大型船は揺れが少なくゆったりと航行できるのです。それに、大型船は船底が四角い形で水の中に浸かっていますが、モーターボートなどは浸かっている部分が浅いので波の上に乗ってしまい、より揺れやすくなるのです。このような小型高速艇の特徴をふまえ、いかに揺れを抑えて安定した、より速い航行ができるかという研究が進んでいます。
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大阪公立大学 工学部 海洋システム工学科 教授 片山 徹 先生
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