大型トレーラーの横転、漁船の転覆事故を防ぐ「三次元重心検知理論」

大型トレーラーの横転、漁船の転覆事故を防ぐ「三次元重心検知理論」

なぜ、大型トラックは横転するのか

大型トラックやトレーラーが横転する事故があります。運転ミスとされがちなのですが、実は法定速度内で適切に運転していても起こることがあるのです。その原因の多くは、「重心の位置」です。車は、重心の位置が低いほど安定し、高くなるほど不安定になります。重心が高いと、ゆるいカーブを低速で走っても横転してしまいます。コンテナや積荷の総重量は計算できても、車の重心の位置まではわからないのです。

揺れから重心の位置を算出

車の重心の位置がわかり、カーブの半径がわかれば、横転しない速度が算出できます。ではどうしたら、重心の位置がわかるでしょうか? この難題を解決するヒントになったのが、船の航海術でした。大型船の場合、出航前に必ず船の重心の位置を計算します。船の設計図に積荷の重さや位置を足して、正確に算出します。重心の位置からどのくらいの波(=揺れ)に耐えられるかを計算し、航路を決めるからです。
「重心から揺れを計算」できるのなら、その逆、つまり「揺れから重心を計算」することは可能です。そこで、大型トラックにセンサを付け、走行時の「揺れ」を感知し、そこから重心の位置を計算する方法が開発されました。それが「三次元重心検知理論」です。これを応用すれば、走行中の車の重心の位置から横転の危険度を推測し、運転手に警告することができます。

船から車へ、車から船へ

船の航海術から生まれた「三次元重心検知理論」を、船に逆応用する研究も行われています。大型船ではあらかじめ重心の位置を計算しますが、漁船や観光船などは、行きと帰りで積荷の量が違うことも多く、重心がわからないまま航海することが少なくないからです。
海は陸のように固定した道路を走るわけではないので、揺れの感知には陸とは別の技術が必要です。しかし、洋上での揺れが感知できれば、「三次元重心検知理論」によって、海での転覆防止に大いに貢献することは間違いありません。

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東京海洋大学 海洋工学部 流通情報工学科 教授 渡邉 豊 先生

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いまは、自分は将来、何をしたらいいのだろうか、と悩むことが多いと思います。でも、そんなに焦って決めなくてもいいと私は思います。長い人生の中では、思わぬことがとても役に立つことがあるものです。「一体、何の役に立つのだろう」などと思いながら勉強したことが、5年後、10年後に大いに役立つことも決して珍しくはありません。
ですから、好きなことにはもちろん一生懸命に取り組み、好きでないことに対しても、すぐに諦めたりせずに取り組むことが大切だと思います。

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東京海洋大学は、全国で唯一の海洋にかかわる専門大学です。2大学の統合により新しい学問領域を広げ、海を中心とした最先端の研究を行っています。海洋の活用・保全に係る科学技術の向上に資するため、海洋を巡る理学的・工学的・農学的・社会科学的・人文科学的諸科学を教授するとともに、これらに係わる諸技術の開発に必要な基礎的・応用的教育研究を行うことを理念に掲げています。