看護に活用する共感とコミュニケーション
心の医療の「治療道具」は看護師自身
体の病気に対する看護は、多くの場合、医療機器を使いながら処置します。一方心の分野の看護では、看護師が自分自身をいわば「治療の道具」として使います。道具の良し悪しの鍵になるのは、コミュニケーションの技術と共感的な態度です。
コミュニケーション技術は、「対話するのが好き」だけでは十分とは言えません。相手をより良い方向に導くには、自分自身を知り、自分自身の言葉や態度を意識して選ぶ必要があります。共感的な態度とは、相手の心理状態をそのまま理解することです。「痛い」と言われたら、その言葉の背景にある状況全体を理解することが大事なのです。
入院生活から地域生活へ
精神医療機関での入院期間は、3カ月以内というのが当たり前の時代になりました。そこで大切になるのが、退院後の生活です。なぜなら、自己判断で治療をやめて再び調子を悪くする人もいるからです。治療の継続を支えるには、「心理教育」という一つのアプローチが有効な手段になります。心理教育では、心理的なサポートを行いながら患者さんと一緒に病気や治療について学びます。その過程で患者さんは不安や戸惑いを経験したり、複雑な心境になったりすることもありますが、それを取り除く方法を看護師と共に一緒に探していきます。
求められる心理教育的アプローチ
以前は、精神疾患をもつ患者さんが自分の病気について知ることは不幸だという考え方がありました。しかし、心理教育を受けて退院した人は、受けずに退院した人よりも、治療の継続や治療の受け止め方などが良好であることが国内外の研究でわかっています。ただ、心理教育がなかなか現場に普及しないのが課題です。心理教育はコミュニケーション技術の応用であり、コミュニケーション技術自体に正解もゴールもないからです。患者さんの退院後の暮らしを豊かにするため心理教育の需要は高く、これを用いる看護師の増加が期待されています。この心理教育は、看護において重要となる共感とコミュニケーションを基盤にしたアプローチなのです。
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先生情報 / 大学情報
大阪公立大学 看護学部 看護学科 教授 松田 光信 先生
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