解析シミュレーションで構造物の安全性向上をめざす

解析シミュレーションで構造物の安全性向上をめざす

日本のインフラの安全を支える強度解析手法

2020年にインド洋で貨物船「わかしお」が真っ二つに折れ、重油が流出する事故がありました。運航する前に必ず船の強度解析を行うことが、国際法上のルールとなっています。強度解析とは、コンピュータを使い、船の強度が要件に見合っているかをシミュレーションすることです。解析シミュレーションを行うと、どのような力が加わると、船のどこにどんな変形が生じるか、どこが壊れやすくなるかがわかります。日本では、輸入される物資のうち、重量ベースで換算すると、全体の約97%が船舶によるものです。この重要なインフラの安全性を担保するために、船の強度解析は欠かせません。

解析シミュレーションのために現象を数式化

高校の物理に出てくる運動方程式は、1個の物体が飛んで、その後重力で落ちていくというような現象をとらえたものです。実際の物体の動きを表現するには、3次元の複雑な数式が必要となります。その動きをコンピュータ上に反映するのが解析シミュレーションです。船や発電所、橋などの大きな構造物全体のシミュレーションは、市販の解析ソフトではできません。構造物全体を把握するためには、アルゴリズム(手順)を考えて、解析プログラムに落とし込んだ独自の解析ソフトが必要になります。

運行中の船の衝撃を3次元で作り出す

解析手法の今後の展開としては、構造物全体に加わる力を現実の状態を反映して可視化することが挙げられます。例えば波を受けた船の特定箇所での構造計測ができますが、この計測データから船全体への影響を推定できるように解析シミュレーションします。構造物の特定箇所での計測データを入力して、構造全体に拡張させる取り組みは始まったばかりで、そのキーワードが「デジタルツイン」です。それは、デジタル空間に現実と同じような状態「双子のモデル」を作り出す技術です。力が加わった構造物全体の影響を3次元で作り出すデジタルツインは、船をはじめとする構造物の安全性の担保に貢献していくはずです。

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大阪公立大学 工学部 海洋システム工学科 准教授 生島 一樹 先生

大阪公立大学 工学部 海洋システム工学科 准教授 生島 一樹 先生

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機械工学、船舶・海洋構造学

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メッセージ

あなたが工学部志望なら、理科と数学はしっかり勉強してください。また、少しでも面白いと思うものがあれば、主体的に調べることが大切です。自分で調べることは、これからの人生に最も大切なことです。主体的に取り組む人が活躍できるのが未来の姿です。
高校までの勉強は、基本的なものが多く実際の現象に対してアプローチするものではないので、モチベーションが湧かないかもしれませんが、大学に入ると、対象物がより具体的になってきます。ものづくりが好きな人は、とても楽しく学ぶことができると思います。

先生への質問

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2022年4月、大阪市立大学と大阪府立大学が統合し、大阪公立大学が誕生しました。大阪市立大学、大阪府立大学は共に約140年の歴史ある大学であり、水都として交通の要衝であった大都市大阪とともに発展してまいりました。この地の利を生かし、理論と実際を有機的に結合することにより、両大学は大都市大阪で生活する人々が必要とする精神文化の発展や産業と経済の振興を担う中心機関としての役割を果たしてきました。本学はさらなる異分野を融合・包摂した新たな学問の創造と多様な世界市民の育成を目指します。