「獣害」から「獣財」へ 野生動物との共生をめざす
嫌なもの、というイメージ
野生動物が農作物を食い荒らしたり、人を傷つけたりする「獣害」は全国で問題になっています。野生動物をどうやって駆除するかではなく、住民の資源と認知してもらい、生育環境を管理しながら共生していくことはできないでしょうか? まず獣害が起きている地域で心理調査を行うと、古くから被害を受けてきた地元の人たちの多くは、シカやイノシシに対して「怖い」「気持ち悪い」といったネガティブな印象を抱いています。こうしたイメージは動物の種ごとに異なりますが、一方でどの地域でも犬にはポジティブな印象が持たれています。
害獣とどう向き合うか
シカの場合、観光資源としてうまく活用している奈良市ではポジティブな印象が強いですが、害を受ける地域ではネガティブな印象が優勢となっています。例えば長崎県対馬(つしま)市では、市内人口3万1,000人に対し、野生のシカが4万1,000頭もいます。林業で育てている木材の樹皮をシカが食べて木材の商品価値を損なったり、下草として生えている植物を根こそぎ食べてしまったりといった森林被害および生態系被害が深刻で、そのため地元の人々の心理調査ではネガティブな印象が強く出ています。なお、共生に適正な個体数は3500頭程度と考えられています。
よりよい共生の道を模索しよう
そこで対馬市内の小中学校では今、安全性を確保する方法で生産されたシカ肉やイノシシ肉が市販の牛肉や豚肉と同じように、月1回以上の「ジビエ給食」とそれらに関連する食育を実施しています。すると彼らの世代で、シカやイノシシへのネガティブな印象が年々緩和されていることがわかりました。これはさまざまな情報を得ながら口にもする、という実体験を通して「嫌なもの」から「地元の資源になるかもしれない」と子どもたちの感情が変化しているものと考えられます。
こうした活動を続けることで、人々のイメージが「獣害」から「獣財」へと変換できれば、人と動物が軋轢(あつれき)を起こさず、上手に共生できる道が見えてくる可能性があるのです。
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大阪公立大学 現代システム科学域 環境社会システム学類 教授 星 英之 先生
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