タイタニック号はなぜ沈没したのか~進化を続ける21世紀の大型船~
大型船舶の安全を守る「復原性能」
どんな船を設計する時でも最も重要な要素の一つが、船が転覆しないようにする「復原性能」です。船は常に波や風の力を受けて運動しながら航行しており、時には突風や高波で船体のバランスを失うことがあります。また、大型船舶になればなるほど、旋回するときに巨大な遠心力が働いて船体が外に傾きます。そうした外からの力で船体が傾いても転覆・沈没しない性能が、船の復原性能なのです。
タイタニック号の安全神話はなぜ崩れたか
タイタニック号は1900年代初頭の就航当時、復原性能にも自信ありとうたわれた大型客船だったにもかかわらず、なぜいとも簡単に沈没してしまったのでしょうか。タイタニック号の船内は、たとえ浸水しても船全体に一気に海水が流れ込まないように、船体の長手方向に防水隔壁で細かく区分されていました。しかし氷山にぶつかって船首に約90mにわたる長い亀裂が入り、そこから入った海水が次々と防水隔壁を乗り越えて船内に広がりました。そして、ついには船首部分の重みに構造上耐えられなくなり折れてしまったのです。タイタニック号の場合は、垂直方向の仕切り壁はあっても水平方向の「フタ」がなかったという防水隔壁の構造も沈没の要因の一つとなりました。そうした教訓が生かされ、今の大型船舶はきちんと水平方向にも隔壁が設けられています。
究極にエコな乗り物をめざして
時は過ぎ21世紀に入り、大型船舶の復原性能は高いレベルまで向上しました。現在は燃費削減が重要課題です。帆を付けて風の力を利用し少しでもエンジンの負担を軽くしようとするものや、船底に造った溝に空気の膜をつくり、海水と船底との摩擦を減らして進みやすくするなどの研究が進められています。船はもともと、同じ重さのものを同じ距離運ぶのなら最もエネルギーを使わないですむ、大変エコな輸送手段です。もともと使わないエネルギーをもっと減らすのは簡単なことではありませんが、安全で地球にやさしい大型船舶は、今もさらなる進化を遂げつつあるのです。
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大阪公立大学 工学部 海洋システム工学科 教授 片山 徹 先生
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