脳科学でこころを再生~人間性とストレスと教育の関係~
人間の脳は人間性に関わる前頭前野が大きい
人間とチンパンジーのDNAを比較すると約99%同じです。しかし、脳には違いがあり、「前頭前野(ぜんとうぜんや)」という脳の前の部分の割合がチンパンジーは17%にすぎませんが、人間では29%と大きいのです。この前頭前野は知能指数には関係なく、人間性やコミュニケーション能力などに関わっています。
前頭前野の中でも、腹内側眼窩前頭皮質(がんかぜんとうひしつ)と呼ばれる部分は、他人のこころ(感情)の理解、社会性、モラルなどに深く関係しています。眼窩前頭皮質が損傷すると、幼稚になり、衝動的、攻撃的(いわゆるキレやすい状態)、多動になります。アメリカでは、この部分を含む脳領域を事故で損傷して人格が一変した例もあります。
過度のストレスは人間性やモラルを低下させる
脳の機能には、ストレスが大きく関わっています。適度なストレスは、脳内にストレスホルモンを分泌させ脳機能を高めます。しかし過剰なストレスは、脳機能を低下させ、最悪の場合は細胞が死んでしまいます。ストレスに弱い脳部位に前頭前野(人間性・モラル)、海馬(記憶)などがあり、過剰なストレスでその機能が低下すると考えられています。
養育環境とストレス耐性
ネズミの実験では、面倒見の良いお母さんと悪いお母さんに育てられた子どもの比較で、面倒見の悪いお母さんに育てられた子どもはストレスに弱くなることなどがわかっています。そして、あるアメリカの精神科医は、まだ仮説ですが、生後、数カ月の間に眼窩前頭皮質が正常に発達するには母子の頻繁な接触が大切で、幼児の頃にストレスを多く経験すると、眼窩前頭皮質にダメージを受け、後に精神医学的な病気にかかりやすくなると考えています。脳科学は、こころの解明をめざして、精神疾患の研究を進めており、治療法開発のみならず教育(目的は人格の完成)における校内暴力やいじめなどの問題の解決にも役立つと期待されています。
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先生情報 / 大学情報
鳥取大学 医学部 生命科学科 助教 一坂 吏志 先生
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