講義No.06348 医学

脳科学でこころを再生~人間性とストレスと教育の関係~

脳科学でこころを再生~人間性とストレスと教育の関係~

人間の脳は人間性に関わる前頭前野が大きい

人間とチンパンジーのDNAを比較すると約99%同じです。しかし、脳には違いがあり、「前頭前野(ぜんとうぜんや)」という脳の前の部分の割合がチンパンジーは17%にすぎませんが、人間では29%と大きいのです。この前頭前野は知能指数には関係なく、人間性やコミュニケーション能力などに関わっています。
前頭前野の中でも、腹内側眼窩前頭皮質(がんかぜんとうひしつ)と呼ばれる部分は、他人のこころ(感情)の理解、社会性、モラルなどに深く関係しています。眼窩前頭皮質が損傷すると、幼稚になり、衝動的、攻撃的(いわゆるキレやすい状態)、多動になります。アメリカでは、この部分を含む脳領域を事故で損傷して人格が一変した例もあります。

過度のストレスは人間性やモラルを低下させる

脳の機能には、ストレスが大きく関わっています。適度なストレスは、脳内にストレスホルモンを分泌させ脳機能を高めます。しかし過剰なストレスは、脳機能を低下させ、最悪の場合は細胞が死んでしまいます。ストレスに弱い脳部位に前頭前野(人間性・モラル)、海馬(記憶)などがあり、過剰なストレスでその機能が低下すると考えられています。

養育環境とストレス耐性

ネズミの実験では、面倒見の良いお母さんと悪いお母さんに育てられた子どもの比較で、面倒見の悪いお母さんに育てられた子どもはストレスに弱くなることなどがわかっています。そして、あるアメリカの精神科医は、まだ仮説ですが、生後、数カ月の間に眼窩前頭皮質が正常に発達するには母子の頻繁な接触が大切で、幼児の頃にストレスを多く経験すると、眼窩前頭皮質にダメージを受け、後に精神医学的な病気にかかりやすくなると考えています。脳科学は、こころの解明をめざして、精神疾患の研究を進めており、治療法開発のみならず教育(目的は人格の完成)における校内暴力やいじめなどの問題の解決にも役立つと期待されています。

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先生情報 / 大学情報

鳥取大学 医学部 生命科学科 助教 一坂 吏志 先生

鳥取大学 医学部 生命科学科 助教 一坂 吏志 先生

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脳科学

メッセージ

「こころ」はどこにあるでしょうか? ハートマークのハートは心臓の意味ですし、「心」という漢字は心臓の形からできていると言われていますから、やはり心臓でしょうか? 答えは「No=脳」です。こころは脳にあると考えられており、脳の前のほう、前頭前野という部分には相手の気持ちを理解する機能があると言われています。最近、科学技術の進歩と共にそれを用いる人間のモラル(道徳・倫理)の重要性が増しています。そのモラルにも前頭前野が関係しています。脳科学はとても面白い分野です。あなたも脳科学者になってみませんか。

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鳥取大学は、教育研究の理念に「知と実践の融合」を掲げ、高等教育の中核としての大学の役割である、人格形成、能力開発、知識の伝授、知的生産活動、文明・文化の継承と発展等に関する学問を教育・研究し、知識のみに偏重することなく、実践できる能力をつけるように努力しています。また、研究・教育拠点、幅広い専門的職業人の養成、地域の生涯学習機会の拠点、社会貢献機能など個性輝く大学を目ざし、地方大学にこそ求められるオンリーワンの研究開発を行い、社会に貢献し、国際的競争力を確保できる大学運営を目ざしています。