自分の脳の完全コピー? スパコンを駆使して脳機能を解明

自分の脳の完全コピー? スパコンを駆使して脳機能を解明

スパコンで脳を再現する

「脳は科学最後のフロンティア」といわれるように、脳の機能の仕組みはいまだによくわかっていません。一方、脳の構造については比較的解明が進んでいるため、スパコン「富岳」を使って全脳のデジタルコピーをつくり、脳の仕組みを調べようという研究が行われています。ヒトの脳は約860億個のニューロンで構成されており、ニューロンからニューロンへと電気的な信号が流れて情報処理が行われています。1つ1つのニューロンの挙動は数式で表すことができるため、解剖学のデータをもとに「富岳」上でニューロンを正確につなぎ、860億個全部の数値計算を行えば、スパコン上で脳の神経活動の再現が可能です。

実際の実験と連携し脳の仕組みを調べる

レバー操作と報酬のジュースを使った単純な装置で、マウスが行動を学習するときの脳の活動を調べる実験があります。ただ、マウスを使った実際の実験では部分的にしか脳の活動がわかりません。そこで、スパコンを使ったシミュレーションを行います。スパコン上のマウスの全脳に学習能力を組み込み、筋骨格系の身体の動きを再現するプログラムにつなげます。実際にマウスで行われた実験をスパコンのマウスで再現して、実験ではまだ観測されていない現象をシミュレーションします。そこから予測を立て、実験にフィードバックして検証します。このプロセスを繰り返し、脳についての理解を進めます。

めざすのはデジタルツイン

10年後には、計算能力が今の「富岳」の100倍にもなる次世代スパコンが完成するでしょう。そのポスト「富岳」を見据えて計画されているのが「脳デジタルツイン」の作成です。現在スパコンで再現されているヒトやマウスの脳はその動物種の平均的なモデルです。一方デジタルツインとは、ある個体のニューロン1個1個の形状までを忠実に再構築した完全なコピーです。デジタルツインが完成すれば、義手や人工心臓のように、事故や病気で損傷した脳をコンピュータで代替できるようになるかもしれません。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

電気通信大学 情報理工学域 I類(情報系) 情報数理工学プログラム 准教授 山﨑 匡 先生

電気通信大学 情報理工学域 I類(情報系) 情報数理工学プログラム 准教授 山﨑 匡 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

計算科学、情報学、神経科学

先生が目指すSDGs

メッセージ

脳の研究をすることは、「ヒトとは何か?」という根源的な問いに真正面から向き合うことです。脳の仕組みを理解するには、医学・生物学・化学・物理学・数学・情報科学など、さまざまな分野のさまざまな手法を総力戦のように駆使することが必要です。特に情報科学は、実験データの計測・解析から、シミュレーションによる機能の再現と予測まで、あらゆるレベルで必要不可欠です。情報科学を志すなら、脳もまたコンピュータの一種ですから、脳の仕組みにも興味を持ってもらえるとうれしいです。

先生への質問

  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

電気通信大学に関心を持ったあなたは

電気通信大学は、東京にある理工系国立大学で、「工学」と「理学」のうち、特に情報分野および理工分野を核とした教育研究を行っています。先端科学技術を支える全分野、例えば、情報、通信、電子、知能機械、ロボティクス、光科学、物理、量子、化学、物質、生命などの分野を網羅しています。社会で活躍する人材の育成をめざし、ものづくりに意欲を燃やす学生の期待に応える教育環境を提供します。