赤ちゃんには、秘められた能力と「脳力」がある

赤ちゃんには、秘められた能力と「脳力」がある

赤ちゃんのもつ能力の不思議

生まれて間もない赤ちゃんは、一見、自分では何もできないように見えますが、実はそうではありません。乳幼児の心理や行動、脳の発達について科学的に解明する学問を「赤ちゃん学」と言いますが、近年の研究で、驚くほど多くの事実がわかってきています。

LとRの区別ができる

例えば、世界中どの地域の赤ちゃんを調べてみても、生後5・6カ月以前には、LとRの発音をきちんと区別して聞き取ることができます。ところが日本語圏など、LとRを区別する必要がない地域で暮らす赤ちゃんは、成長するにつれ、こうした区別ができなくなっていきます。LとRを区別するのは余分な機能だと判断され、能力の「刈り込み」が行われるのです。顔の認識についても同様で、私たちは通常、人の顔の区別はできますが、サルの顔を区別するのは難しいものです。しかし赤ちゃんの場合、人の顔だけでなくサルの顔でも区別が可能だという実験結果が出ています。これもまた、成長の段階で刈り込まれていく能力の一つだと言っていいでしょう。

環境に応じて能力を刈り込む

また、脳を構成している神経細胞(ニューロン)の数は、実は生まれたばかりの赤ちゃんが最も多く、成人の約1.5倍あり、成長とともにその数は減っていきます。また、神経細胞どうしをつないでネットワークを構成する「シナプス」の数も、生後7・8カ月ごろにピークとなり、あとは減少していくという調査結果が出ています。つまり脳の神経細胞もシナプスも、赤ちゃん期に過剰に作られ、成長の段階を追うごとに、機能的に必要ない部分が刈り込まれていくということです。
赤ちゃんは、実際に生まれ出てくるまで、自分がどのような環境で生活するのかわかりません。ひとまずの能力を携えておき、成長しながら不要な機能を捨てていくものと考えられています。今のところ、シナプスの刈り込みと能力の刈り込みが直接対応しているのかどうかはわかっていませんが、今後の赤ちゃん学の発展によって明らかになっていくでしょう。

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東京大学 教養学部 学際科学科 教授 開 一夫 先生

東京大学 教養学部 学際科学科 教授 開 一夫 先生

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発達認知科学、認知科学

メッセージ

学問の道は一つだけではありません。大学時代、私はロボットなどの人工知能の研究をしていましたが、もともと機械よりも人間に興味がありました。そうした興味をひそかに温め続けていたおかげで、ロボット研究から赤ちゃんの研究へと道がつながったのだと思っています。また、当時勉強したことは、現在の研究にも確かに役立っています。あなたも、今すべき勉強はしっかりやりつつ、興味のあること、やりたいことを心の中にためておいてください。チャンスは、予測不能な形でやってくるものです。

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