講義No.11386 医学

イタイイタイ病から学ぶ、予防医学の大切さ

イタイイタイ病から学ぶ、予防医学の大切さ

イタイイタイ病を知っていますか

「イタイイタイ病」は、大正から昭和にかけて、富山県を流れる神通川流域の住民に発生した病気です。最初は腰や肩、膝の痛みにはじまり、そのうち転んだだけで骨折するなど、骨がもろくなります。そのため寝たきりになっても、「痛い、痛い」と訴えることから、イタイイタイ病といわれるようになりました。腎臓の障害と骨の障害、貧血などをともない、骨が非常にもろくなり、笑うだけでも骨折するようになって衰弱死するという、恐ろしい病気でした。

原因と対策

イタイイタイ病は、カドミウムを長期間摂取したことが原因でした。神通川上流の神岡鉱山から、カドミウムを含む排水が流れ出し、神通川の水を生活水・農業用水として用い、収穫した米などを食べていた住民に深刻な影響が出たのです。1968年、イタイイタイ病は公害病に認定され、対策地域で汚染された水田の土壌復元工事が実施、2012年に終了しています。なお、自然界に存在するカドミウムは、神通川以外からも見つかっており、カドミウムは日本人が主食とする米に含まれやすいことから、欧米人より日本人の摂取量が多いことがわかっています。消費者の健康を守るため、日本では食品衛生法に基づき、コメのカドミウム濃度の基準は「玄米及び精米で0.4 ppm(1kgに含まれるカドミウムの量が0.4 mg = 0.4 mg/kg)以下」と定められています。

治療の前に予防を

FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)の合同専門家会議や、EUの欧州食品安全機関(EFSA)の科学者会議では、カドミウムに関する耐容摂取量(人が生涯にわたって毎日摂取し続けたとしても、健康への悪影響がないと推定される摂取量)を検討しています。この設定に、ごく普通の日本人集団におけるカドミウムばく露の健康影響調査の情報が参考にされています。国際的な基準の設定に役立てられているのです。
このように摂取基準を決定するのも、将来人々が病気になるのを防ぐためです。現代の医学は治療と同等以上に予防を重視しています。

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先生情報 / 大学情報

千葉大学 医学部  教授 諏訪園 靖 先生

千葉大学 医学部 教授 諏訪園 靖 先生

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予防医学

先生が目指すSDGs

メッセージ

「臨床医は、病気の人を治療します。しかしそれは、例えるなら川の上流から流れてくるおぼれた人を、懸命に助けているようなもの。ならば思い切って上流に行き、おぼれる前に助ける方法もあるのではないか」。これは、ある先生の言葉です。
この言葉は、あらかじめ病を防ぐという予防医学の考えに当てはまります。病気にならないような体作りから関与し、人々が健やかに過ごせるように、私はやりがいと楽しみとをもって貢献したいと取り組んでいます。あなたも興味があれば、ぜひ挑戦してください。

先生への質問

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千葉大学は、他大学にないユニークな学部を含む全11学部を擁する総合大学です。学際的文理融合の精神のもとに、教育研究の高度化、産官学の連携推進、国際交流の拡充を進めています。近隣には放送大学、国立歴史民族博物館などがあり、各分野で共同研究が行われています。「つねに、より高きものをめざして」の理念のもと、世界を先導する創造的な教育・研究活動を通しての社会貢献を使命とし、生命のいっそうの輝きをめざす未来志向型大学として、たゆみない挑戦を続けます。