イタイイタイ病から学ぶ、予防医学の大切さ
イタイイタイ病を知っていますか
「イタイイタイ病」は、大正から昭和にかけて、富山県を流れる神通川流域の住民に発生した病気です。最初は腰や肩、膝の痛みにはじまり、そのうち転んだだけで骨折するなど、骨がもろくなります。そのため寝たきりになっても、「痛い、痛い」と訴えることから、イタイイタイ病といわれるようになりました。腎臓の障害と骨の障害、貧血などをともない、骨が非常にもろくなり、笑うだけでも骨折するようになって衰弱死するという、恐ろしい病気でした。
原因と対策
イタイイタイ病は、カドミウムを長期間摂取したことが原因でした。神通川上流の神岡鉱山から、カドミウムを含む排水が流れ出し、神通川の水を生活水・農業用水として用い、収穫した米などを食べていた住民に深刻な影響が出たのです。1968年、イタイイタイ病は公害病に認定され、対策地域で汚染された水田の土壌復元工事が実施、2012年に終了しています。なお、自然界に存在するカドミウムは、神通川以外からも見つかっており、カドミウムは日本人が主食とする米に含まれやすいことから、欧米人より日本人の摂取量が多いことがわかっています。消費者の健康を守るため、日本では食品衛生法に基づき、コメのカドミウム濃度の基準は「玄米及び精米で0.4 ppm(1kgに含まれるカドミウムの量が0.4 mg = 0.4 mg/kg)以下」と定められています。
治療の前に予防を
FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)の合同専門家会議や、EUの欧州食品安全機関(EFSA)の科学者会議では、カドミウムに関する耐容摂取量(人が生涯にわたって毎日摂取し続けたとしても、健康への悪影響がないと推定される摂取量)を検討しています。この設定に、ごく普通の日本人集団におけるカドミウムばく露の健康影響調査の情報が参考にされています。国際的な基準の設定に役立てられているのです。
このように摂取基準を決定するのも、将来人々が病気になるのを防ぐためです。現代の医学は治療と同等以上に予防を重視しています。
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千葉大学 医学部 教授 諏訪園 靖 先生
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