ロボットシステムで膝の動きを解明、新たな治療法確立へ
膝の自由な動きと安定性を両立させる靭帯
ヒトの膝(ひざ)関節は、いろいろな動きができるようになっている分、構造としては、非常に不安定です。そうした不安定な膝関節を安定させ、歩いたり走ったりできるようにしているのが、靭帯(じんたい)や腱(けん)、半月板などの組織です。靭帯のひとつである前十字靱帯(ACL)は、膝が前方へ異常に移動するのを防止したり、膝を伸ばすときに下腿(かたい)を外向きに回したりする働きをしています。
確立されていない前十字靱帯の最適な治療法
膝のスムーズな動きには欠かせない前十字靱帯ですが、スポーツや事故などによって損傷しやすい組織でもあり、野球選手やサッカー選手など、アスリートの多くは、前十字靱帯を損傷した経験を持っています。そうした傷つけやすい組織でありながら、前十字靱帯の力学的な特性はまだよくわかっておらず、最適な治療方法も確立されていません。よりよい治療方法を確立するためには、前十字靭帯の力学的な特性についての詳しいデータが必要になりますが、そのためには、膝関節の複雑な動きを正確に再現する必要があります。
ロボットシステムで膝の実際の動きを再現
膝関節の動きを再現する上で役に立つのが、工学的なアプローチです。膝関節の動きを調べるためのロボットシステムもバイオメカニクス(生体力学)を用いて開発されました。これは、ヒトの膝関節が動くときに各組織に加わる力の変化を解析する装置で、これを使うことにより、実際に歩いたり走ったりするときの骨や筋肉の動きに加え、靱帯を構成する細かい線維が具体的にどのように機能するかも理解できます。また、この装置を使って手術のシミュレーションをすることもでき、測定したデータを元に手術方法の改善を図ることもできます。
工学というと、機械や電気などの分野の学問と思われがちですが、近年は、医学や生物学の分野でもバイオエンジニアリング(生体工学)、バイオメカニクスといった工学の研究が進んでいるのです。
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