組織培養時に、運動をさせると細胞の形や機能が変化する!
再生医療に用いられる工学的アプローチ
工学というと、機械や電気の分野だと思われがちですが、近年は、バイオエンジニアリング(生体工学)、バイオメカニクス(生体力学)など、医学や生物学と工学を融合させた研究も盛んに行われています。再生医療の中心である幹細胞の研究でも、バイオメカニクスが採り入れられています。
培養皿の形状が細胞の強度を増す
ヒトの膝(ひざ)の滑膜(かつまく)から採取した幹細胞から滑膜由来幹細胞自己生成組織(scSAT)を作製する研究でも、バイオメカニクスが使われています。scSATは生体内に採り入れた時に、拒否反応を起こしにくいという特徴から、膝の腱(けん)や靭帯(じんたい)、軟骨などに利用する再生医療用材料として期待されていますが、実用化のためには、強度の向上が課題です。scSATの強度を高める方法として、培養皿の形を変える方法があります。表面にマイクロミリメートルという単位の溝を付けた培養皿でscSATを培養すると、細胞の組織が溝に沿った方向に向き、溝方向への引っ張り強度が向上するという結果が出ています。
運動すれば細胞も強くなる
さらに、培養環境の中でscSATを引っ張ったり戻したりする力を加えることを1日、1~2時間程度繰り返すと、組織の強度に関わるコラーゲン線維量が増大し、強度が向上することもわかっています。一般的には、細胞の形や機能は持って生まれたものなので、外的な因子には影響されないと考えられがちですが、培養皿の構造や外からの力といった力学的因子で影響を与えることができるのです。「運動すれば筋肉がつく」ということを私たちは、経験的に知っていますが、細胞レベルでも、「力学的作用が身体を変える」ということが言えるのです。
このscSATを使った再生医療の研究は、動物実験の段階まで進んでいます。将来、この技術が実用化されれば、怪我の治療だけでなく、高齢者に多い変形性関節症の治療にも役立てることが期待されています。
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