ソフトマターは温度と運動で変化する

ソフトマターは温度と運動で変化する

「ソフトマター」とは何か?

「ソフトマター」とは化学や物理学を始めとする多くの分野で最近注目されている素材で、高分子、ゲル、液晶、コロイド、界面活性剤を代表とする両親媒性分子などの総称です。液晶テレビや洗剤など身近に活用されているものが多いのですが、その複雑さのために、基本構造や物性については研究があまり進んでいませんでした。しかし、ノーベル物理学賞を受賞したピエール=ジル・ド・ジェンヌの研究によって物理学の一分野として研究の突破口が開け、ソフトマターの基礎研究が盛んに行われるようになってきました。

両親媒性分子集合体の特徴的な性質

ソフトマターの一つである両親媒性分子集合体に注目してみましょう。水になじむ親水基と油となじむ疎水基を備えた両親媒性物質の特徴として、微小な条件変化により形が大きく変化することが挙げられます。その条件の一つが温度です。例えばある種の界面活性剤が作るミセルは低温では球状ですが、温度が上昇すると親水基の形状が縦長に伸びることで表面の密度が変化し、棒状になって成長します。

ずり流動場での変化

ソフトマターの構造変化のもう一つの大きな要因は運動です。例えば市販の生クリームは液状ですが、泡立て器でかき混ぜるとクリーム状に変化します。これは撹拌(かくはん)という動作が作用しているためです。撹拌されている液体の中には、速く流れている場所と遅く流れている場所があります。このような場所によって速さが異なる流れを作り出す場を「ずり流動場」と呼びます。ずり流動場に温度変化を加えて両親媒性分子集合体の形状の変化を観察すると、興味深い現象が見られることがあります。両面に親水基をもつ膜が重なった「ラメラ相」を形成している物質をずり流動場下に置き、温度変化を加えると、ある温度以上で閉じた膜がタマネギのように幾重にも重なった構造をもつ「オニオン相」に変化し、さらに温度を上げるとまたラメラ相に戻るのです。この特性を生かした新たな製品が、今後開発されるかもしれません。

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先生情報 / 大学情報

東京都立大学 理学部 化学科 教授 加藤 直 先生

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物理化学

メッセージ

高校時代の私は化学が嫌いで、物理の方が好きでした。ところがオパーリンの『生命の起源と生化学』という本を読んで感銘を受け、その分野に進むためには化学を学ぶ必要があることを知りました。優れた研究には感受性や論理性が必要です。私が現在化学の中でも物理化学を専門とし、研究対象としてソフトマターを選んでいるのは、それぞれ自分の論理性・感受性との相性が良いためで、これらは高校時代までに培われたものです。論理性を養う上で高校の授業はすべて役に立ちますから、自分を磨く意味でも向き合ってください。

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