現代社会に欠かせない、「触媒」の果たす役割とは?

現代社会に欠かせない、「触媒」の果たす役割とは?

目的とする材料を効率よく生み出すために

私たちの身の回りにある、洋服や携帯電話、スーツケース、自動車のタイヤなどには、柔らかな繊維から固いプラスチックに至るまで、さまざまな材料が使われています。それらの多くは、化学物質の反応によって作り出された材料です。こうした材料を効率よく作り出して活用するためには、特定の原料から目的とする材料を生成する「触媒」反応を開発することが重要になります。

目的の反応を達成するには精密なデザインが必要

触媒とは、生成される化学物質自体には取り込まれないものの、ほんの微量加えることによって、目的とする化学反応のルートを開拓し、より少ないエネルギーでその反応を実現可能にする物質です。触媒は、現代の化学工業でほとんどの合成に用いられていて、欠かすことのできない存在になっています。触媒によって目的とする反応を達成するためには、金属や有機配位子(金属イオンと結合する有機化合物)の選択により触媒の組成と構造を精密にデザインしなければならないため、化学に関するさまざまな知識を総動員して取り組む必要があります。

光で反応する触媒による、環境にやさしい化学合成

従来の触媒を用いた化学反応の多くは、熱エネルギーが必要です。しかし最近では、光を当てると化学反応を促進できる触媒という、新しい分野での研究も進められています。光による触媒反応は、熱エネルギーを用いるよりも格段に環境にかける負担が少なくてすむほか、今までにないルートでの化学反応を実現できる可能性を秘めています。そのためには、光を吸う色素を触媒と組み合わせる方法が考えられていますが、光反応には複雑な要素も多く、触媒のデザインにはさらに深い知識と経験が要求されます。この分野の研究が進むと、例えば将来、大気中の二酸化炭素から炭素を取り出して固定化する際などにも役立つのでは、と期待されています。触媒の研究は、私たちの社会の未来を支えていくための研究でもあるのです。

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先生情報 / 大学情報

東京都立大学 理学部 化学科 准教授 稲垣 昭子 先生

東京都立大学 理学部 化学科 准教授 稲垣 昭子 先生

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化学、有機金属化学

メッセージ

化学はものづくりの基礎となる学問です。私たちの身の回りにあるものには、柔らかい繊維や硬いプラスチックなど、化学物質の反応によって作り出された材料が用いられています。化学物質は、私たちの生活をより豊かにしてくれるものなのです。
身近なものの素材に興味を持って「何でできているんだろう? どうやって作るんだろう? どんな仕組みで動いているんだろう?」という素朴な疑問を通じて、化学に興味を持ってもらいたいと思っています。その素朴な疑問を解決するために、あなたも大学で化学の研究を深めていきませんか?

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東京都立大学は「大都市における人間社会の理想像の追求」を使命とし、東京都が設置している公立の総合大学です。人文社会学部、法学部、経済経営学部、理学部、都市環境学部、システムデザイン学部、健康福祉学部の7学部23学科で広範な学問領域を網羅。学部、領域を越え自由に学ぶカリキュラムやインターンシップなどの特色あるプログラムや、各分野の高度な専門教育が、充実した環境の中で受けられます。