講義No.03427 法学 社会学

日本の刑事裁判制度の大きな変革、被害者参加制度

日本の刑事裁判制度の大きな変革、被害者参加制度

刑事手続きの蚊帳の外に取り残された犯罪被害者

近代以前は、殺人が起こった場合、その遺族による「あだ討ち」が認められていました。しかし、それではいつまでも殺し合いが続きかねません。そのため、近代国家では、国が被害者の遺族からあだ討ちという手段を取り上げ、代わりに加害者の処罰をするようになりました。これが捜査や裁判といった刑事手続きの発端です。
この手続きの当事者は国と加害者(被告人)ということになり、その二者に関する決まりごとが多く定められました。その過程で、被告人などの権利が厚く保護される一方、被害者は蚊帳の外に取り残されるようになったのです。

被害者が裁判に参加できるように

これまで被害者の気持ちは検察官ができる限り代弁していましたが、法律で定められていたわけではないので、被害者側が知らないうちに加害者の処分が決まることも少なくありませんでした。こうした状況の中、被害者側が裁判に関わる権利を認めてほしいという声が広がり、2008年、被害者や遺族、または依頼を受けた弁護士が裁判に参加できる、「被害者参加制度」ができました。
参加できる事件の種類は限られ、手続きも煩雑ですが、ともかくそれまで傍聴席に座るしかなかった被害者や遺族が、裁判に直接関われるようになりました。また、この制度では検察官とは別に被害者側からの求刑が認められており、少なくとも法律上はどちらの求刑も同じ重みをもちます。これは日本の裁判史上、画期的な変化と言えます。

だれもが賛成する制度か

しかし、いい制度ができたと喜ぶ人ばかりではありません。犯罪のショックが大きすぎて、この制度を利用する勇気が出ない被害者もいます。さらに「いいと言われている制度を利用できない自分はだめな人間だ」と自分自身を追い詰めてしまうということもあります。見方を変えればプラス面だけでなくマイナス面もあるのです。
裁判をはじめ、制度や法律は絶えず変わり続けています。社会や国民の意識の変化に応じて、国家はより理想的な形を模索していると言えるでしょう。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

東京都立大学 法学部 法学科 教授 峰 ひろみ 先生

東京都立大学 法学部 法学科 教授 峰 ひろみ 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

法学

メッセージ

今の若い人には、他人の痛みや苦しみなど、内面に立ち入ろうとしない傾向があるようです。しかし、刑事裁判ではこうした人間の内面の弱い部分に直面せざるを得ません。法学部では法律の勉強だけでなく、世の中の出来事や人の心にも関心を持つことがとても大切です。
法律や制度は社会の道具に過ぎません。それらは被害者も被告人も、そして一般国民皆が納得できる結論(判決)を導き出すために使われるべきものですし、一人の怒りや働きかけをきっかけとして変えることもできるものだということを知ってください。

東京都立大学に関心を持ったあなたは

東京都立大学は「大都市における人間社会の理想像の追求」を使命とし、東京都が設置している公立の総合大学です。人文社会学部、法学部、経済経営学部、理学部、都市環境学部、システムデザイン学部、健康福祉学部の7学部23学科で広範な学問領域を網羅。学部、領域を越え自由に学ぶカリキュラムやインターンシップなどの特色あるプログラムや、各分野の高度な専門教育が、充実した環境の中で受けられます。