脳では瞬時に情報が伝わっている
ポストゲノム時代の到来
ヒト染色体DNAの全塩基配列が解読され、ヒトを形作る設計図の全貌が明らかになりました。しかし、これは、いろいろなタンパク質がどのようなアミノ酸で作られているのかを指定しているもので、これを読んだからといって生命現象のすべてが解き明かされるわけではありません。タンパク質は人体の部品です。タンパク質という部品が決められた量作られて、決められた場所でそれぞれが役割分担に応じた仕事をして、はじめて個体は生きていけます。今の時点ではまだ部品の設計図がわかっただけです。部品であるそれぞれのタンパク質がいつ、どこで、どれだけの量つくられ、何をしているのかをひとつひとつ読み解いていかなければならない「ポストゲノム」の時代になっています。
情報を伝達するカムキナーゼ
生命活動は化学反応の集合体と言えます。人間が考えたり、しゃべったりするたびに、体内ではさまざまな化学反応が起きています。怒ったり、笑ったりもすべてが化学反応で説明できます。このような化学反応の触媒になっているのがタンパク質であり酵素です。酵素は細胞の中で作られるタンパク質の一種です。
人間が何らかの行動をする時には、脳の中で細胞間の情報伝達が行われています。脳で情報伝達の役割を果たしている酵素の中に「カムキナーゼ」というものがあります。カムキナーゼを活性化するのは「カルモジュリン」というタンパク質で、カルシウムが4個結合するとカムキナーゼと結合して活性化します。つまり、何らかの情報が伝わり、細胞内のカルシウム濃度が高まると、カムキナーゼは仕事を始めます。活性化したカムキナーゼはさまざまな基質タンパク質をリン酸化し、例えばシナプスからの神経伝達物質の放出を促進したりして隣の細胞に情報を伝えていきます。脳ではこのような情報伝達が瞬時に行われています。また、カムキナーゼは記憶にも関わっています。カムキナーゼのような酵素は生体触媒であり、低エネルギーで効率よく化学反応を進めるため、生命活動には無くてはならないものです。
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