空気からパンを作る? 魔法みたいな「触媒」の働き
化学肥料の開発に一役買った触媒
二酸化マンガンに過酸化水素水を加え、酸素を発生させる実験を覚えていますか? このとき、過酸化水素水を酸素と水に分ける役割をしている二酸化マンガンのような物質を「触媒」と呼びます。有名な例としては、鉄を主成分とする触媒を利用して、窒素と水素からアンモニアを作る「ハーバー・ボッシュ法」があります。この方法のおかげで容易に化学肥料が作れるようになり、小麦など食物の生産性が向上しました。窒素は空気から得られるので、ハーバー・ボッシュ法は「空気からパンを作った」と表現されることもあります。
縁の下の力持ち
化学の観点では、「触媒」とは、分子を自在に組み替えたり、選択的に分子を変化させたりといったことを効率よく行うツールとも言えます。私たちの身の回りにあるほとんどのものに触媒の技術は使われていますが、触媒自体を目にすることはなく、まさに「縁の下の力持ち」の存在です。
例えば、自動車の排気口の中にも触媒として白金やロジウムなどの金属が含まれており、排気中の有害物質を、できるだけ環境に悪影響を与えない物質に変換する役割を果たしています。また、燃料電池、リチウムイオンバッテリーも触媒がないと効率的に動きません。クリーンな水素エネルギーの利用も推奨されていますが、石油や天然ガスから効率よく水素を作る上でも、触媒の技術は大きな役割を果たしているのです。
「グリーンケミストリー」に欠かせない触媒
「資源を有効に使う」「エネルギーを効果的に生み出す」「環境に負荷のかかる物質をなるべく外に出さない」といった3つのポイントを実現するために触媒は必要不可欠です。「環境に優しい合成化学」として、有害物質をなるべく使わない、出さない化学の実践をうたった「グリーンケミストリー」でも、触媒は大きな鍵を握っているのです。
このように人類が将来も安定して持続可能な社会を作っていくため、触媒はとても重要な技術であり、世界中で研究が進んでいます。
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先生情報 / 大学情報
東京都立大学 都市環境学部 環境応用化学科 教授 宍戸 哲也 先生
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