ヤモリをまねて、人間も天井を歩けるようになるか?
天井を素早く歩くヤモリ
日本でも見かける爬虫類のヤモリは、壁や天井を素早く歩くことができます。平らなガラス面でも落ちることはありません。ヤモリの手足の表面には微細な毛が密生しており、分子の間に働くごく弱い力(ファンデルワールス力)によって、凝着力が発生するのだろうと想像されていました。しかし、原理的にはどれくらいの力を発生させることができるのでしょう。また、素早く歩くためには足を離すことも必要です。これらの仕組みは、どのようなものでしょう。
手足の裏の毛の秘密
ヤモリの足裏の毛の生え際は、直径がマイクロメートルサイズですが、先端はさらに枝分かれしてナノメートルサイズにまで細くなっています。ナノメートルサイズの毛の先端は最大限のファンデルワールス力を引き出すために有効です。さらに、傾斜して生えた毛はバネのようにしなやかにたわみ、壁や天井の凹凸を吸収しながらフィットして、確実に対象を把持できるようになっています。
では、足を離すにはどうしているのでしょうか? 情報保護のためにシートを貼った圧着葉書があります。垂直に力を加えても剥がすことはできませんが、端からめくれば容易に剥がせます。これは破壊力学で説明できます。同様に、ヤモリの毛も水平方向に力を加えることで把持したり離したりできることが説明できます。毛は傾斜しているだけでなく緩やかなカーブを描いており、これによりさらに容易に把持力を制御できることもわかっています。
ますます重要になる学際分野
ヤモリの吸着メカニズムを正しく理解して応用すれば、人間やロボットもヤモリを真似て天井を素早く歩けるようになります。この研究の様に、殆どの科学技術的課題は1つの学問分野だけでは解決できません。物理、化学、材料、電気、機械など全ての工学分野の知識が重要です。基礎的な知識程大切です。さらに、環境やエネルギーなど、地球規模で社会に波及する課題に対応するには、文系的な知識すら必要とします。多様な知識の融合により人類は少しずつ課題を解決しているのです。
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先生情報 / 大学情報
東京科学大学 理工学系(旧・東京工業大学) 環境・社会理工学院 融合理工学系 教授 高橋 邦夫 先生
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