マヨネーズは液体? 固体? ~身近な現象の謎に挑む物理学~

マヨネーズは液体? 固体? ~身近な現象の謎に挑む物理学~

何十年も続く世界最長の実験

あなたは、世界最長の実験を知っていますか? それはなんと1927年から始まった「ピッチドロップ」という実験です。ピッチ(樹脂)が入ったロートから、シズクが1滴、また1滴と落ちる様子を観察するのですが、1滴が落ちるまでに8年から10年以上もかかる、という何とも気の長い実験です。1日中じっと眺めていても、流れる様子はまったく見えません。このような物質でも、液体と呼べるのでしょうか?

物質の状態は3態だけ?

高校の授業では、物質の状態は固体、液体、気体の3つで、分子が規則正しく高密度に並ぶのが固体、分子が高密度でランダムに並ぶのが液体、そして分子が低密度でランダムに飛び回っているのは気体と習います。けれども、私たちの身近にある物質は、この3態にすべて当てはまるでしょうか。例えば、マヨネーズや豆腐、洗顔クリーム、ゴムなどは、簡単には流れない固体のような性質も、時として液体のように流れる性質も持っています。このように固体とも液体とも判別しにくい、やわらかいものやドロドロしたもの、手触りがポニョポニョしたもの、動きが遅いものを総称して、「ソフトマター」と呼びます。

身近にあふれるガラス的な現象

ガラスも、高温ではドロドロとした液体となり自由に形を変えることができる、ソフトマターのひとつです。ガラスは分子が高密度になり流れが止まっても、液体のようにランダムな配列をしていて、硬いけれどもろい性質を持ちます。これらは、ソフトマターに共通する特徴です。しかし不思議なことに、このガラス的な現象がいつどのような条件で表れるのか、ほとんどわかっていません。分子が高密度になるとなぜ流れづらくなるのかも、物理学に残された大きな謎となっています。
車が増えすぎると交通渋滞が起きたり、問題が複雑になりすぎて解けなかったり、物質に限らず身の回りには、ガラスに似た現象にあふれています。このような問題を解くカギも、実はガラスにあると考えられるのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

名古屋大学 理学部 物理学科 教授 宮崎 州正 先生

名古屋大学 理学部 物理学科 教授 宮崎 州正 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

ソフトマター物理学、非平衡統計物理学

メッセージ

高校時代は、いま取り組むべき勉強をとにかく一生懸命にやってほしいと思います。理系文系にかかわらず、数学や国語、英語、歴史などは、どれも大切な科目です。多少回り道になってもいいから納得するまで考える、そんな粘り強い勉強を心がけてください。
大学受験では速く能率よく問題を解くことが大事ですが、勉強は受験が終わった後にこそ重要です。どんな職業に就いても、将来に夢や希望があれば、勉強はずっと続きます。そのとき生きてくるのは、「どれだけ納得するまで問題を考えることができるか」だけなのです。

名古屋大学に関心を持ったあなたは

名古屋大学は、研究と教育の創造的な活動を通じて、豊かな文化の構築と科学・技術の発展に貢献してきました。「創造的な研究によって真理を探究」することをめざします。また名古屋大学は、「勇気ある知識人」を育てることを理念としています。基礎技術を「ものづくり」に結実させ、そのための仕組みや制度である「ことづくり」を構想し、数々の世界的な学術と産業を生む「ひとづくり」に努める風土のもと、既存の権威にとらわれない自由・闊達で国際性に富んだ学風を特色としています。この学風の上に、未来を切り拓く人を育てます。