昆虫ホルモンが鍵! 安全で効果的な殺虫剤開発をめざす

昆虫ホルモンが鍵! 安全で効果的な殺虫剤開発をめざす

昆虫ホルモンの作用に関わる遺伝子の特定

昆虫の「脱皮変態」はホルモンにより制御されています。昆虫が幼虫の状態を維持するときは「幼若ホルモン」が、脱皮するときは「脱皮ホルモン」が作用します。分泌されたホルモンは受容体と結合して特定の遺伝子の発現を制御します。遺伝子の発現でつくられたタンパク質がまた別の遺伝子に作用して、幼虫状態の維持または脱皮という現象が誘導されます。
この脱皮変態のメカニズムの研究で、幼若ホルモンのシグナル伝達に関わる遺伝子が特定されました。また、この遺伝子はいろいろな昆虫に共通して存在することがわかりました。

「昆虫ホルモン」を標的に

農業では病害虫対策として殺虫剤が使われていますが、万全ではなく、収穫が減る問題は今もあります。また、環境中に広がった殺虫剤が、人間やほかの生き物の健康を害する問題もあります。そのため、より安全かつ効果的に、ターゲットとなる昆虫だけに効く殺虫剤の開発がめざされています。
その一つが、昆虫の「脱皮変態」を司るホルモンの作用をかく乱することにより殺虫効果をもたらす殺虫剤です。昆虫が幼虫からさなぎになるなどの成長過程で、人間には見られない脱皮変態の現象が起きます。神経系に作用する従来の殺虫剤は人間の神経にも悪さをする可能性がありますが、脱皮変態を標的とするのであれば、人間には影響せず駆除することができるというわけです。

さらなる殺虫剤開発に向けて

脱皮変態を標的とする安全性の高い殺虫剤はすでにいくつか開発されています。ただ、害虫にはたくさんの種類があり、まだまだ足りない状況です。脱皮変態に関わるホルモンの研究を行うことにより、新たな殺虫剤の探索を短時間で行うことが可能になると期待されます。さらなる殺虫剤開発に向けて、昆虫ホルモンの研究が大きく貢献すると期待されています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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名古屋大学 農学部 資源生物科学科 害虫制御学研究室 准教授 水口 智江可 先生

名古屋大学 農学部 資源生物科学科 害虫制御学研究室 准教授 水口 智江可 先生

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昆虫生理学

先生が目指すSDGs

メッセージ

植物に病気や害虫が発生すると、農作物の収穫量が減り、大きな問題になっています。昆虫の脱皮変態を制御するホルモンのメカニズムを調べて、殺虫剤開発に応用することをめざして研究しています。殺虫剤開発の際にはたくさんの安全性試験が行われ、安全とわかったものだけが登録されています。昆虫ホルモンの作用をかく乱することにより殺虫効果を示すような殺虫剤は、さらに安全性の高いものです。昆虫ホルモンの研究は、病害虫を減らす技術に貢献する、意義のあるテーマです。

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