象徴天皇って、結局のところ「人間」? それとも「権威」?
日本の基盤になっている天皇制
「建国記念の日」や「文化の日」などの祝日は、天皇が即位した日や誕生日などが起源になっています。普段、私たちは天皇のことを特に意識はしませんが、この国の成り立ちには天皇や天皇制が大きく関わっています。また学校の歴史では、「戦後、天皇が人間宣言をした」と学びますが、実際に天皇自身が人間と宣言をしたわけではなく、占領軍と天皇側の双方の意図が組み合わさったものでした。その後、天皇が「権威」なのか、私たちと同じ「人間」なのかという論争は対立を呼び、時代と共に揺れ動いてきました。
「人間・天皇」を醸成した上皇
戦後すぐは「権威」のイメージが強かった天皇ですが、今の明仁上皇が皇太子時代に、それまでの慣習を破って一般女性と「恋愛結婚」したと見られたことが天皇の「人間」らしさを強調するきっかけになりました。さらに平成になって大災害が続き、天皇が被災地を巡り、膝をついて被災者にいたわりの言葉をかける姿がメディアで報じられたこともイメージを変える力になりました。「天皇が国民の前で膝をつくなんて権威が落ちる」という声もありましたが、現在では尊敬を呼ぶ行動としてむしろ評価されています。天皇は、国民と苦楽を共にすることが天皇の歴史的なありようだと認識していて、それを行動に移したのです。
国を緩やかにまとめている存在
現代の日本では、さまざまな分断が見られます。2021年、新型コロナウイルスが感染拡大している中で、東京五輪を開催するかどうかでも意見が大きく分かれました。その時、「天皇が東京五輪の通常開催を憂慮されている」という言葉が伝えられ、「無観客で開催する」という決定に落ち着いたのです。本来なら政府が決定すべき事柄ですが、天皇の言葉がそれを緩やかにまとめる形になりました。天皇は、日本国憲法で、日本と日本国民の「象徴」と規定されています。「象徴」とは何だろうと皆が模索していますが、現在、「権威」と「人間」の両方が融合し、日本という国をまとめている存在であることは確かです。
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名古屋大学 文学部 人文学科 准教授 河西 秀哉 先生
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