動物が季節を感じる仕組みをさぐる
動物はなぜ限られた時期しか繁殖しないのか
ウズラは日本と中国などの間で渡りをする渡り鳥ですが、春から夏にかけて繁殖します。渡りの時期は空を飛ぶために体を軽くしており、精巣や卵巣が小さくなります。一方、繁殖時期には大きくなります。必要な行動に合わせて体が変化するのです。
このような変化には、太陽が出ている昼の長さが関係していることがわかっています。ウズラの場合は、昼の長さが12時間より長くなると春を感じて、春を告げるホルモンが分泌されて繁殖活動を行います。逆に、12時間よりも短くなると繁殖活動を停止します。
光を感じる時間で季節を判断する
この変化は、どういうメカニズムで行われているのでしょうか? 実は、ウズラの脳の中に光受容器として働くタンパク質があり、それが光を感じて、季節を判断していることがわかりました。ウズラの脳は小さいので脳の中に光が到達し、日光の1000分の1の光でも感知します。このように光を感じて季節を判断する仕組みは、哺乳類や魚類にもあります。また、昼の長さが何時間になれば季節が変わったと判断するのかは、種や環境によって異なります。日本でも北の地域に生息するメダカは、13時間で季節の変化を感じますが、南の地域に生息するメダカは12時間で変化を感じます。このような性質は、すでに養鶏で利用されています。ニワトリが一年中卵を生むのは、鶏舎の照明を明るくして、常に繁殖期だと思わせているからです。
人の身体も季節によって変化する
このことから、光の環境を変えたり遺伝子改変を行ったりすれば、繁殖行動をコントロールし、家畜の生産性を上げることが可能だと考えられます。一方、人間の生殖には際立った季節性はありせんが、数百年前、まだ栄養状態が悪く、生活環境もよくなかった時代は、春の出生率が高かったことがわかっています。人間にも季節を感じる仕組みがあり、冬になると気分が沈むのは、冬眠の名残だと言われています。そこで、冬でも気分を高める薬の開発も行われているのです。
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名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所・農学部 資源生物科学科 動物統合生理学研究室 教授 吉村 崇 先生
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