がん治療のための創薬とサプリメントの開発研究最前線
低酸素状態ががん治療を難しくする
がんのような、固まりをつくる固形腫瘍の中では血管がうまく作られません。そういう状態になると栄養が行き届かなくなると同時に、酸素も不足します。しかし、このような低酸素状態でも、がん細胞は生きていけるのです。さらに、酸素の少ない状況にあるがん細胞には、抗がん剤は効果を発揮できず、放射線治療も効きません。放射線を当てたときにラジカルという活性酸素ができるのですが、酸素が少ないためにラジカルができないのです。つまり低酸素状態は、がんにとっては好ましい状態で、治療を非常に難しくしています。
エネルギーと反応する薬の開発
そこで研究されたのが放射線増感剤という放射線の効果を高める薬です。放射線と薬を組み合わせて、がんに対する治療を行うという考え方から生まれたもので、放射線のエネルギーに反応して、がんへの効果を高める薬です。また、同じような考えから、超音波治療の効果を高める薬も研究されています。
免疫力を調節するサプリメントの研究
がんのような病気に対しては、人間にはもともと免疫力があります。免疫細胞ががん細胞を見つけると攻撃します。しかし抗がん剤のような薬を服用すると、免疫力はどんどん下がってしまいます。そこで、血液中の免疫力を高めるタンパク質を酵素によって活性化して、再び体内に戻す治療法が開発され効果を発揮しています。そして、その治療方法を発展させてウシの初乳から、免疫力を高めるタンパク質を採りだしてサプリメントを開発する研究も進められています。ウシの初乳は、血液とほとんど同じ成分からできているからです。
このサプリメントには、がん患者のように免疫力が下がっている人には免疫を高め、アトピー性皮膚炎のように免疫力が上がりすぎている場合には逆に下げる効果もあります。つまり免疫力を適切な数値に調整するサプリメントなのです。がんを完治させるものではありませんが、悪化を防ぐ効果が報告されています。
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先生情報 / 大学情報
徳島大学 生物資源産業学部 生物資源産業学科 教授 宇都 義浩 先生
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