動物も新薬で病気から救える時代をめざして
動物のがんについて
牛のがんの主な原因はウイルスに感染することで起こります。現在、日本中の牛に感染が広まっており、農家さんを苦しめている病気の1つです。ペットとして飼育されている犬は、昔に比べ平均寿命は大きく延びました。しかし、犬の高齢化に伴い、がんが死因の1位となっています。
がん細胞や感染細胞が免疫から逃れる仕組み
有効なワクチンや治療法がない動物の病気はたくさん存在します。ほとんどの病気ががんや慢性の感染症などの病気です。動物の病気に対してさまざまなワクチンの開発を試みましたが、期待された効果が出ないことが繰り返されてきました。解析した結果、がん細胞や感染細胞にワクチンによる免疫から逃れる仕組みがあることがわかってきました。人間と同様に、体の中にある免疫チェックポイント分子は、通常は過剰な免疫反応を抑制する働きをしているのですが、発がん過程では、がん細胞が免疫から攻撃されるのを逃れて増殖するために利用されてしまうのです。そこで、免疫チェックポイントを阻害する薬の開発を目標としました。悪性黒色腫というがんにかかった犬への臨床研究では、2割程度の犬に明らかながんの退縮効果が確認され、さらに肺に転移した後の生存期間を延長する効果も得られました。この薬の実用化をめざした臨床研究が続いています。
動物専用の薬の開発
このような動物に対する薬の研究は、人間に対しての研究より、はるかに遅れています。人間に対する薬は、開発にお金がかかっても実用化に至れば、ある程度の利益をもたらします。しかし、動物の場合、ペットであれば飼い主が治療費を出しますが、牧場で飼われている家畜に対して、多額の費用をかけて延命させることはほぼありません。感染症と診断されれば、現在は治療をせずに殺処分して感染を抑えるのが基本的な対策になっています。人間と同じ命である動物が病気になったときにも、治療の道が開けるように、動物専用の新薬の開発が望まれます。
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北海道大学 大学院獣医学研究院 病原制御学分野/先端創薬分野 准教授 今内 覚 先生
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