見えない光で肌を見る? 美容や医療、スポーツに貢献する光の可能性
肌を傷つけずにコラーゲンの分布を測定
老化やしわなど、肌の状態を見極めるためには、直接、肌の中にあるコラーゲンの状態を見ることが有効です。しかし現状では、組織を切り取って、コラーゲンだけが染まる薬剤に浸して状態を確かめる方法が主流です。この方法は医療機関などに限られる上、肌から組織を切り取るという点で、美容のための研究には適さないことが問題です。そこで研究が進められているのが、近赤外超短パルス光という目に見えない光を使って観察する方法です。
光波のひずみを利用する
近赤外超短パルス光は、瞬間的で非常に強力な光です。コラーゲン分子はアミノ酸の「三重らせん」が含まれており、これが強い光の波を浴びると、光をひずませる特性を持っていることを利用して、観察を行います。これは音のひずみの仕組みにも似ています。例えば弱い力でピアノの「ド」の鍵盤をたたくと、ほぼ「ド」に相当する周波数の音のみが発生しますが、強い力でたたくと、もとの「ド」に加えて、1オクターブ上の「ド」や、その上のオクターブの「ド」の音が発生して音がひずみます。これと同じく、コラーゲンに近赤外超短パルス光をあてると2倍、3倍と整数倍の周波数をもつ光が発生し、それぞれが波長によって色を変えます。観察者は光の色を見ることで、そこにコラーゲンが分布しているかどうかがわかるのです。
光のもつ大きな可能性
研究が進んで精度が向上すれば、肌にしわができるメカニズムや、日焼けによるダメージをより定量的に測定できるようになります。スキンケア用品や日焼け止めクリームといった、美容品の開発に貢献することが期待されます。また、コラーゲンは肌だけでなく体の多くの部分に含まれているため、深いやけどを負った人の損傷具合をより定量的に観察したり、腱(けん)を手術した後の治り具合をより明確に知ったりすることもできます。人間の体を安全で定量的に観察できる光は、今後も美容や医療、スポーツなど幅広い分野に貢献していくでしょう。
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先生情報 / 大学情報
徳島大学 理工学部 理工学科 機械科学コース 教授 安井 武史 先生
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