細胞内の高性能掃除機が難病治療の切り札になる

細胞内の高性能掃除機が難病治療の切り札になる

細胞内の高性能掃除機オートファゴソーム

必要なときだけ、細胞のなかで作られるロボット掃除機のようなものがあります。「オートファゴソーム」と呼ばれ、ミトコンドリアと小胞体の接点で作られることが、2013年にわかりました。作り出されるのは細胞内にゴミがたまって処理が必要なときと、細胞がエネルギー不足になって栄養補給が必要なときです。オートファゴソームは細胞内の一部を取り込んで分解し、エネルギー源に変えることができるのです。さらにオートファゴソームは、細胞に侵入してきた病原体をやっつける機能があることもわかってきました。

オートファゴソームは病気も防ぐ

遺伝性の神経変性疾患の1つにハンチントン舞踏病があります。発病するメカニズムは明らかになっていて、突然変異によって特定のタンパク質のなかにグルタミンがたくさん並ぶことによって引き起こされます。問題は並ぶグルタミンの数で、17個くらいなら大丈夫でも、60個ほどもつながると病気になるのです。ここで興味深いのがオートファゴソームの反応です。グルタミンが害のない数の段階では無視するものの、身体にとって害となる数に達するやいなや攻撃にかかるのです。また、アルツハイマー病もタンパク質の異常が原因のひとつですが、これもオートファゴソームが退治しようとします。

がん細胞にも存在するオートファゴソーム

オートファゴソームは、がん細胞のなかにもあります。がん細胞は転移するときに過酷な状況に置かれるのですが、そこでオートファゴソームがエネルギー源を作り出し、がん細胞を助けているのです。であるなら、がん細胞内のオートファゴソームの動きを止めることができれば、がんの転移を抑えられる可能性が出てきます。
逆にハンチントン舞踏病やアルツハイマー病の場合は、オートファゴソームを細胞内でどんどん作り、異常タンパク質を分解させればよいのです。このようにオートファゴソームを人工的に制御できれば、難病治療につながる可能性があるのです。

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大阪大学 医学部 医学科 教授 吉森 保 先生

大阪大学 医学部 医学科 教授 吉森 保 先生

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細胞生物学、細胞工学、遺伝子工学

メッセージ

私は高校生のころ、最初は文系志望で、大学では心理学を勉強したいと考えていました。最終的には生物学を選びましたが、その過程ではずいぶんと心が揺れ動いたものです。進路についてはうんと悩み、迷っていいと思います。ただし、一つ大切にしてほしいのは好奇心です。いつも知的好奇心を絶やさないこと、これが人を人として成立させる条件だと思うのです。そうして探究した結果が役に立てば言うことないですし、仮に役に立たないとしても、誰も知らないことを自分が見つけてやる、そんな野心を持ってください。

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