ナノ空間に閉じ込めた光で極小世界を見る
ナノ粒子を利用した顕微鏡
光学顕微鏡はレンズで光を狭い領域に絞り込み、小さなものを見えるようにします。しかし、レンズの性能には限度があり、500ナノメートル程度までしか見られません。それよりも小さなものを見るために、レンズではなくナノメートルサイズの金属粒子を使う方法があります。極小の金属粒子は表面に光が当たると、小さな領域に光を閉じ込めようとする性質から非常に強い光が発生します。この光を針先に集め、ずらしながら対象物に当て、跳ね返ってきた光をデバイスで検出すると光学2次元画像が構築できます。今まで見えなかった極小の構造が鮮明に解析できるのです。
タンパク質1個だけを見る
この仕組みでは、光学顕微鏡で可能な範囲よりさらに1/100ほど小さなものが見えます。例えば、人体の組織を構成するタンパク質の1個だけを観察できるのです。しかも、この顕微鏡の仕組みでは、タンパク質から返ってくる光の情報によりタンパク質の種類の違いを判別できます。大きさなどの見た目は同じでも、性質の違うタンパク質を見分けられるのです。
また、半導体デバイスの製品検査にも役立ちます。半導体は構成している結晶の品質が性能に直結します。今までは性能が悪くても問題がある部分の特定は困難でした。半導体をナノの視点で見ると、きれいな元素配列に見える結晶でも、ところどころにある欠損を発見できます。問題のある部分を特定できれば、安定した材料を設計するための指針となります。
見るだけではない顕微鏡へ
現在の見える範囲は30~40ナノメートルまでですが、さらに小さな領域に光を閉じ込める技術を確立できれば、タンパク質の中でもより小さなDNAやアミノ酸までも観察できるかもしれません。また、この極小の針先を利用して、分子を操作することも考えられています。針で力を加えたり電気をかけたりしながら跳ね返ってくる光を観察することで、分子が変化する様子を確認できます。科学や技術を支える道具として、ナノの光はたくさんの可能性を秘めているのです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
徳島大学 理工学部 理工学科 光システムコース 教授 矢野 隆章 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
応用光学、フォトニクス先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?