講義No.10746 応用物理学

ナノ空間に閉じ込めた光で極小世界を見る

ナノ空間に閉じ込めた光で極小世界を見る

ナノ粒子を利用した顕微鏡

光学顕微鏡はレンズで光を狭い領域に絞り込み、小さなものを見えるようにします。しかし、レンズの性能には限度があり、500ナノメートル程度までしか見られません。それよりも小さなものを見るために、レンズではなくナノメートルサイズの金属粒子を使う方法があります。極小の金属粒子は表面に光が当たると、小さな領域に光を閉じ込めようとする性質から非常に強い光が発生します。この光を針先に集め、ずらしながら対象物に当て、跳ね返ってきた光をデバイスで検出すると光学2次元画像が構築できます。今まで見えなかった極小の構造が鮮明に解析できるのです。

タンパク質1個だけを見る

この仕組みでは、光学顕微鏡で可能な範囲よりさらに1/100ほど小さなものが見えます。例えば、人体の組織を構成するタンパク質の1個だけを観察できるのです。しかも、この顕微鏡の仕組みでは、タンパク質から返ってくる光の情報によりタンパク質の種類の違いを判別できます。大きさなどの見た目は同じでも、性質の違うタンパク質を見分けられるのです。
また、半導体デバイスの製品検査にも役立ちます。半導体は構成している結晶の品質が性能に直結します。今までは性能が悪くても問題がある部分の特定は困難でした。半導体をナノの視点で見ると、きれいな元素配列に見える結晶でも、ところどころにある欠損を発見できます。問題のある部分を特定できれば、安定した材料を設計するための指針となります。

見るだけではない顕微鏡へ

現在の見える範囲は30~40ナノメートルまでですが、さらに小さな領域に光を閉じ込める技術を確立できれば、タンパク質の中でもより小さなDNAやアミノ酸までも観察できるかもしれません。また、この極小の針先を利用して、分子を操作することも考えられています。針で力を加えたり電気をかけたりしながら跳ね返ってくる光を観察することで、分子が変化する様子を確認できます。科学や技術を支える道具として、ナノの光はたくさんの可能性を秘めているのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

徳島大学 理工学部 理工学科 光システムコース 教授 矢野 隆章 先生

徳島大学 理工学部 理工学科 光システムコース 教授 矢野 隆章 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

応用光学、フォトニクス

先生が目指すSDGs

メッセージ

高校での理系の分野は数学や物理や生物など教科が細かく分かれていますが、先端的な研究は、それらに境界がない融合的な学問です。すべてがミックスされた領域から、新しい研究や学問が生まれてきます。
ですから、自分はこれが好きだからこれしかやらないと一つの分野だけにとどまるのではなく、たくさんの分野に興味を持っていてください。分野をうまく組み合わせることで、今までにない新しい考えを自分で作り出すことができるのです。たくさんの教科を俯瞰(ふかん)的に勉強しながら、新しい可能性を探っていきましょう。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

徳島大学に関心を持ったあなたは

徳島大学は有為な人材の育成と学術研究を推進することにより、人類の福祉と文化の向上に資するため、自主・自律の精神に基づき、真理の探究と知の創造に努め、卓越した学術及び文化を継承し、世界に開かれた大学として豊かで健全な未来社会の実現に貢献することを理念としています。
豊かな緑、澄み切った水、爽やかな風、温暖な気候に恵まれた徳島の地にあって、「知を創り、地域に生き、世界に羽ばたく徳島大学」として、発展を目指しています。