進化の謎をひもとく ~進化生物学・ゲノム生物学~
遠いようで近い? ヒトとイカの眼
軟体動物でも、イカやタコ、オウムガイなど頭足類は「海の霊長」とも呼ばれ、発達した脳を持っています。また、脊椎動物と似たカメラアイ、つまりレンズと網膜で立体視ができる眼を持っています。動物の系統樹では離れているヒトとイカの眼は、どうやって進化・発達してきたのでしょうか?
「予測」×「実験」で実証する
生物がどのような歴史をたどってきたかを探るのが「進化生物学」です。進化を考える上で遺伝子は重要な役割を果たしますが、すべての遺伝情報であるゲノムを解析する技術の進歩で、さまざまな生物のゲノムを比較して遺伝子の変化の過程、ひいては生物の特徴に関わる遺伝子を予測できるようになりました。しかし、ゲノム情報は膨大なため、「バイオインフォマティクス」によりコンピュータで解析していきます。
生物の特徴に関わる遺伝子が本当に機能しているかを確かめるために生物を実際に解剖して、対象となる部分を抽出し、さまざまな遺伝子が相互にどう影響し合っているのかを実験から分析し、実証していきます。このように、ゲノムから生物の進化過程や多様性、複雑な機能に迫る学問が「ゲノム生物学」です。
遺伝子の機能から新しい進化像が見えた
比較研究の結果、「PAX6」と呼ばれる、眼の発生で一番重要なマスター制御遺伝子(遺伝子の発現に連鎖反応を起こし、特定の形質の形態形成を制御する遺伝子)が、複数のタンパク質を作る機能を使い分けるのは、脊椎動物とイカ・タコだけであることが判明しました。これは、PAX6の「使い分け機能」が眼や脳の進化に重要である可能性を示唆すると同時に、脊椎動物だけでなく、別系統のイカにも進化のパターンとして共有される複雑なシステムがあるということを示しています。遠い種をゲノムレベルで調べ、比較することで、新しい進化像が見えてきたのです。
このように脳神経系の発達や進化の特性を見つけることで、眼や特定の器官の再生や発生をさせる場合の遺伝子の働きを特定する研究にも応用していけるでしょう。
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長浜バイオ大学 バイオサイエンス学部 アニマルバイオサイエンス学科 教授 小倉 淳 先生
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