生命の神秘を分子レベルで解明する

生命の神秘を分子レベルで解明する

植物はなぜ上に向かって成長するのか?

植物は上に向かって成長します。それはなぜでしょう? 太陽が上にあるからでしょうか? 19世紀の自然科学者チャールズ・ダーウィンは、植物に箱をかぶせて暗闇にしても植物は上をめざして成長するので、重力を感じているのではないかと考えました。
細胞の中にはデンプンが落ちるとその結果力が作用して開く「イオンチャネル」という分子があることがわかりました。デンプンが重力で落ちるとイオンチャネルが開き、細胞の外にあるカルシウムイオンが細胞内に入ってきます。このような「分子装置」が働いて植物は上下がわかるのでないかと考えられています。では、重量がない宇宙空間ではこの分子装置はどうなるのでしょうか? 宇宙ロケットを使った実験が進められていますので、その答えが得られる日も近いと期待されています。

細胞も分子をリサイクルする。その仕組みとは

人間の身体の中では、細胞が移動して再利用されるという現象が繰り返されています。この仕組みによって、けがをした傷口でも細胞が移動して、少しずつ治っていきます。細胞移動の分子的な仕組みは現在も不明な点が多いです。細胞が引っ張られるとイオンチャネルとつながっている「アクチン線維」が伸びます。細胞の形が元に戻ると、アクチン線維はゆるみます。ここでいうアクチン線維とは、アクチンと呼ばれるタンパク質がらせん状に積み重なって形成される線維状の複合体です。このゆるんだアクチン線維は複数の「コフィリン」というタンパク質が結合して解体されます。そしてこの解体された分子は移動して、再びアクチン線維を作るのに利用されます。このようなリサイクルが細胞移動を可能にしているのです。

薬の開発や診断にも役立つ

細胞の働きは、分子レベルでも少しずつ解明が進んでいます。細胞のさまざまな機能や働きについて、分子レベルでの解明が進めば、薬の開発や、がんの転移など医療分野での診断にも役立つことが期待されています。

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先生情報 / 大学情報

金沢工業大学 バイオ・化学部 生命・応用バイオ学科 ※2025年4月名称変更 教授 辰巳 仁史 先生

金沢工業大学 バイオ・化学部 生命・応用バイオ学科 ※2025年4月名称変更 教授 辰巳 仁史 先生

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生物物理学

先生が目指すSDGs

メッセージ

レーザー光線を集めてピンセットのように使える「光ピンセット」を用いて、1つの分子をつまんだり引っ張ったりして調べています。この技術を使うと、細胞の中で働く分子の動作の仕組みを調べることができます。このような最先端の研究を進めていくことは大変なことも多いですが、「分子が集合して細胞が生きていることの根本の仕組み」を追究するという意味でやりがいがあります。
大切な高校の授業は実習です。実習を通して物理現象や生命の神秘に触れ、自分自身の中に科学の芽を育てて、研究の道に進むとうまくいくと思います。

先生への質問

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金沢工業大学に関心を持ったあなたは

金沢工業大学では、講義等で「知識を取り込み」、それを仲間との実験・演習の中で「思考・推論」し、組み替え結びつけることで「新たな知識を創造」し、その成果を「発表・表現・伝達」する独自の学習プロセスを全科目で導入しています。さらに高度な研究環境の中で産学協同による教育研究を実践するとともに、夢考房など知識の応用力を高める多彩なフィールドを実現することで、獲得した知識を知恵(応用力)に転換できる「自ら考え行動する技術者」を育成しています。