形がわかれば医療にも貢献! 生命に欠かせない膜タンパク質
生命を支える膜タンパク質
私たちの体は細胞からできています。細胞は膜によって外界と区切られているため、細胞の外から栄養を取り入れたり、不要になったものを細胞外へ捨てたり、細胞の外の様子を探ったりする必要があります。このような働きをするのが、細胞膜の中にある「膜タンパク質」です。人間から細菌まで様々な膜タンパク質を持っており、生命に欠かせません。
治療薬開発に貢献
様々な膜タンパク質が、それぞれの役割を果たすことで、私たちの細胞は生きることができます。例えば、ATP合成酵素という膜タンパク質は、細胞のエネルギーを生産します。重要な膜タンパク質の不調は、病気に繋がります。そのような膜タンパク質の構造や機能がわかれば、病気の原因解明や治療薬の開発に繋がります。
例えば、新型コロナウイルスの感染を阻害する「レセプターデコイ」です。新型コロナウイルスは、その膜タンパク質であるスパイクタンパク質がヒトの特定のレセプタータンパク質に結合することで感染します。そこで、そのレセプターに似た分子を作って、ヒトの細胞と新型コロナウイルスの結合を邪魔してしまおうというわけです。
電顕で構造を捉える
まずは「低温電子顕微鏡法」により、スパイクタンパク質がヒト細胞に結合する様子が解析されました。この手法では、スパイクタンパク質の溶液を凍らせて、電子顕微鏡で撮影します。その画像の中には、様々な向きのたくさんのタンパク質が写っているので、それらタンパク質の画像を組み合わせることで、3次元の構造を計算できます。解析の結果、レセプターデコイがスパイクタンパク質に結合する様子を捉えることができました。また、レセプターデコイの方が、元のレセプターよりも効率よく結合できることも明らかになりました。このように、スパイクタンパク質に効率よく結合できるレセプターデコイが開発されました。
病気に関わる膜タンパク質でも、その形が未解明なものはたくさんあります。構造解析が進めば、様々な病気の治療に貢献できると期待されています。
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先生情報 / 大学情報
京都工芸繊維大学 工芸科学部 応用生物学域 応用生物学課程 准教授 岸川 淳一 先生
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