生命現象の秘密を探る「蛍光イメージング」
蛍光を発する分子を観察する
生物の体組織や細胞の仕組みを観察する方法に「蛍光イメージング」という技術があります。この方法では、吸収したエネルギーを放出する際に蛍光を発する分子を用います。それらを、細胞内の見たい場所に集めたり、見たいタンパク質などに結合させたりします。そこから発せられた蛍光を蛍光顕微鏡という機器で見ると、細胞が生きたままの状態で、内部の小さな器官の構造やタンパク質が動き回る様子などをリアルタイムで観察できるのです。
ノーベル賞の対象となった超解像顕微鏡技術
可視光を用いて観察する従来の顕微鏡では、200ナノメートル以下のサイズの対象物は、光の回折現象の影響で像がぼやけてしまい、観察が困難になるという欠点がありました。しかし、1994年に開発された誘導放出抑制(STED)顕微鏡では、2種類のレーザー光を対象物に照射し、不要な波長の光をフィルターで取り除く仕組みが導入され、数十ナノメートル程度まで分解能を向上させました。こうした超解像顕微鏡の登場により、細胞内の微細な構造や活動の様子を、これまでになく鮮明に観察することが可能になりました。この超解像顕微鏡の開発は、2014年のノーベル化学賞の対象になりました。
強いレーザー光に耐える新たな蛍光色素
今までにない空間分解能での蛍光イメージングを可能にした超解像顕微鏡ですが、細胞内に導入した蛍光色素に強いレーザー光を照射するため、蛍光色素がすぐに色あせてしまうという課題がありました。これに対し,、最近の研究で、非常に高い耐光性を有する有機蛍光分子が開発されました。リン元素を含むという特徴をもつ分子です。従来の蛍光色素は、超解像顕微鏡で数回観察すると色あせてしまっていましたが、新しく開発された超耐光性蛍光色素では、千回以上繰り返し観察を行っても、十分な蛍光を保持できるようになりました。
超解像顕微鏡と新しい超耐光性蛍光色素による強力なタッグは、未知の生命現象の解明に欠かせない存在となっていくことでしょう。
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名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所・理学研究科 物質理学専攻 教授 山口 茂弘 先生
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