ウイルスから読み解く生命のメカニズム
ウイルスとは
ウイルスの構造は非常にシンプルで、遺伝物質であるDNAまたはRNAとそれを包むタンパク質や脂質の膜だけでできています。そのため、宿主となる細胞に感染して、細胞が持つ様々なシステムを借用しなければ増えることはできません。
細胞吸着のカギは糖鎖?
マウス白血病ウイルスの場合、宿主の細胞膜にあるタンパク質を受容体として利用し、ウイルス表面のスパイクタンパク質を結合させて細胞内に侵入します。近年、細胞への結合には細胞表面にある「糖鎖」も関係していることがわかってきました。単糖が鎖状につながった糖鎖は、DNA、タンパク質につぐ第三の生命鎖と呼ばれており、枝分かれや鎖の長短、末端構造などが多様で複雑な生体物質です。
インフルエンザウイルスの場合、受容体となるのはこの糖鎖です。インフルエンザウイルスのスパイクタンパク質であるヘマグルチニンは糖鎖の末端にある特定の3糖に結合することが知られています。さらに鎖の長さや枝分かれ構造、末端から3つ目の糖への化学修飾や分岐などもウイルスの結合に影響することがわかってきました。インフルエンザウイルスが結合する糖鎖構造の研究は、インフルエンザウイルスの特徴の1つである人や豚、鳥など宿主の種を超えた感染のメカニズム解明につながることが期待されます。
たった11塩基がスプライシングを制御
細胞内でウイルスが増殖するためのタンパク質合成には、DNAから転写されたRNAの不要な部分を除去する「スプライシング」の過程が必要です。マウス白血病ウイルスの全遺伝子約8000塩基のうちの特定の11塩基を壊すと、スプライシングが正しく行われないことが突き止められました。つまり、この11塩基に何らかの因子が結合してスプライシングを制御していると予想され、それを実際に証明するための実験が進められています。遺伝子の構造が単純なウイルスでスプライシングの基本的なメカニズムが明らかになれば、スプライシング異常を原因とする人の疾患についての理解にもつながると期待されます。
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