脂肪由来の間葉系幹細胞が、肝臓を再生する?
再生医療に用いられる間葉系幹細胞
機能不全に陥った臓器や皮膚、骨などの組織を、細胞を用いて再生を図ることを再生医療といいます。再生医療で用いられる幹細胞に「体性幹細胞」があり、そのうちの1つが「間葉系幹細胞」です。これは骨髄や脂肪組織に存在し、骨や歯、脂肪細胞などの細胞に分化します。この細胞の最大の特徴は、サイトカインやエクソソームという物質を分泌することです。間葉系幹細胞は炎症を抑えたり、血管を作ったり、臓器が炎症後の治癒過程で生じた「線維化」した臓器の線維化を改善したりする力があります。
肝硬変を改善するための臨床治験
間葉系幹細胞を使った肝硬変の再生医療の、安全性、有効性を検証する臨床治験が進んでいます。肝硬変のある肝臓では線維化が進み、再生能力が低下しています。大学で行われた世界で初めての臨床研究で、末梢静脈から自己骨髄細胞を投与することで、線維化が改善され、肝臓の再生も誘導されることが確認されました。
最初の臨床研究では自分の体から採取した自己骨髄細胞を使用していましたが、現在は他人の脂肪組織から採取し作成した間葉系幹細胞による臨床治験が進んでいます。脂肪組織由来の間葉系幹細胞は、再生促進因子、線維化改善能力や免疫抑制能力が高いこと、医療廃棄物などからも集められることなどのメリットがあります。間葉系幹細胞を用いた再生医療は、心筋症やIgA腎症などにも応用され、さらに広く用いられることが期待されています。
新型コロナウイルス感染症の治療にも?
新型コロナウイルス感染症では、免疫系細胞からサイトカインが過剰に分泌されて制御不能となり、肺の線維化が進んでしまう症状がみられます。このサイトカインの暴走を抑制して症状を改善するために、間葉系幹細胞、エクソソームの研究が世界中で進められています。間葉系幹細胞から出るエクソソームという物質は、細胞に対して免疫や炎症を抑える機能も持っています。間葉系幹細胞の研究は、世界に広がる感染症に立ち向かうためにも欠かせないものとなっています。
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先生情報 / 大学情報
新潟大学 医学部 医学科・消化器内科学 教授 寺井 崇二 先生
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