大腸菌の遺伝子の研究から迫る「生命とは何か」

大腸菌の遺伝子の研究から迫る「生命とは何か」

分子レベルで最も理解が進んでいる大腸菌

人間はまだ、一つの生物について、基本的な仕組みをすべて分子レベルで理解することができていません。生命科学の世界において、分子レベルで最も理解が進んでいる生物は、実は「大腸菌」です。体長が1ミリの約1000分の1しかない小さな生物ですが、大腸菌には遺伝子が約4400個もあります。しかし2006年時点のまとめで、実験を通じて働きがわかっている遺伝子は全体の約54%にすぎません。全体の約32%は遺伝子の塩基配列から推測されているだけで、そのほかについてはまだ働きが全くわかっていません。分子レベルで最も理解が進んでいる大腸菌でさえ、遺伝子レベルではまだまだわからないことだらけなのです。

必須遺伝子と最小必須遺伝子群

ただ全遺伝子約4400個のうち、破壊すると死んでしまう必須遺伝子は約300個であることがわかっています。またそれらの働きについても実験的に明らかになっています。ここまでわかっている生物は大腸菌だけです。しかし生きるために、遺伝子のセットとしては何個の遺伝子が必要か(最小必須遺伝子群)についてはまだわかっていません。それを明らかにするために、ゲノムを大きく削った大腸菌(染色体大規模欠失株、ゲノム縮小株)を作る研究が行われています。これまでにゲノム全体の約44%も削ってしまった大腸菌が人工的に作られています。

隠れている必須遺伝子の探索

約300個の全必須遺伝子の働きがわかったら、生きるための仕組みがすべてわかったかというとそうではありません。例えば生きるために必須であっても、同じ働きをする遺伝子が2つあれば、どちらか一方を破壊しても死にません。ですが両方の遺伝子を破壊すると死んでしまいます。生きるための仕組みをすべて明らかにするためには、このように隠れている必須遺伝子も探し出して、働きを明らかにすることが必要です。このように隠れている必須遺伝子の探索は、野生株では難しいですが、ゲノム縮小株を利用すると明らかにすることができます。

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東京都立大学 理学部 生命科学科 教授 加藤 潤一 先生

東京都立大学 理学部 生命科学科 教授 加藤 潤一 先生

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分子生物学

メッセージ

最近、研究の世界では「役に立つ」ことがもてはやされています。研究者をめざす人たちも、応用的なことに目が行きがちです。しかし、研究のベースになっているのは「わかることの楽しさ」です。また今はまだ何の役に立つのかわからなくても、「基礎的な仕組みを理解すること」はとても大事です。基礎的な仕組みを理解していれば応用に発展させることができますが、基礎をないがしろにして応用ばかりでは、さらにその先の応用ができなくなります。生命の基礎的な仕組みを解き明かす楽しさを、ぜひ皆さんにも味わってほしいと思います。

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