講義No.12767 生物学

ヘビの体はなぜ長い? 遺伝子の働きから発生と進化を探る

ヘビの体はなぜ長い? 遺伝子の働きから発生と進化を探る

どの動物も同じ形になる発生段階がある

人間の赤ちゃんがおなかの中で成長していく過程で、実はほかの動物とそっくり同じ形になる時期があります。この時期は「ファイロティピック段階」と呼ばれ、同じ「門」に属する動物の胎児は、発生生物学の専門家でも見分けがつかないほど、みな形がそっくりです。これは種のあいだで保存された同じ遺伝子がこの時期に働くためです。したがって人以外のモデル動物のファイロティピック段階を研究すれば、人間の発生の理解につながります。

ヘビの体が長いのはなぜ?

一方、ファイロティピック段階を過ぎると、種それぞれに特異的な形が作られていきます。頭から後ろ足までの背骨の数に着目すると、カエルが8個、スッポンが18個と少ないのに対し、ニワトリでは21個、ヘビに至っては220個もあります。
後ろ足は必ず「仙椎(せんつい)」という背骨の場所に形成されますが、発生中に「GDF11」という遺伝子が働いた場所に、仙椎と後ろ足が形成されることがわかりました。背骨は頭側から作られていきますが、カエルのように背骨の数が少ない動物では早い発生のタイミングでGDF11が働いて仙椎と後ろ足が作られ、反対にヘビなどではGDF11が遅い発生のタイミングで働くので背骨の数が多くなります。実際にニワトリの胎児でGDF11の働くタイミングを早めると、後ろ足が前側に作られます。

骨格パターンの多様性が生み出された仕組みに挑む

進化の過程で種ごとの背骨の数に違いが生じたメカニズムも、GDF11が働くタイミングの違いで説明できると考えられますが、なぜ種によって働くタイミングが違うのかはまだわかっていません。そこで、遺伝子の働きを制御する遺伝子発現調節領域の配列を異なる種のあいだで比較し、タイミングを制御しているDNAの領域を探す研究が進められています。
このような発生の仕組みの解明は、進化の過程で骨格パターンの多様性が生み出されたメカニズムをついにDNAの配列レベルの違いで理解できることにつながります。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

大阪公立大学 理学部 生物学科 教授 鈴木 孝幸 先生

大阪公立大学 理学部 生物学科 教授 鈴木 孝幸 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

発生生物学

メッセージ

私は生物学の分野で、動物の発生生物学を専門とした研究を行っています。発生生物学は、1つの受精卵から私たちの体の形がどのような遺伝子の働きによって作られていくのかを調べる学問で、私たちヒトの形が出来上がる仕組みの解明に直結します。発生生物学の知識と技術は、現代の不妊治療や、臓器の再生医療技術の開発に役立っています。その進歩には、発生の仕組みそのものを理解するための新たな理学的発見が欠かせません。ぜひ本学理学部生物学科で、一緒にアクティブに発生の研究をしましょう!

大阪公立大学に関心を持ったあなたは

2022年4月、大阪市立大学と大阪府立大学が統合し、大阪公立大学が誕生しました。大阪市立大学、大阪府立大学は共に約140年の歴史ある大学であり、水都として交通の要衝であった大都市大阪とともに発展してまいりました。この地の利を生かし、理論と実際を有機的に結合することにより、両大学は大都市大阪で生活する人々が必要とする精神文化の発展や産業と経済の振興を担う中心機関としての役割を果たしてきました。本学はさらなる異分野を融合・包摂した新たな学問の創造と多様な世界市民の育成を目指します。