唾液腺の研究が人工臓器をつくる道をひらく
どんどん枝分かれしてできる臓器
まずツルツルのボールを思い浮かべてください。これが少しずつ大きくなると同時に、サッカーボールのような継ぎ目ができ、その継ぎ目が徐々に深い裂け目となって枝分かれして、やがて房になります。これが唾液腺や肺、腎臓などの臓器ができるメカニズムです。これらの臓器は、組織の表面積を増やして水分や酸素の交換効率を高めるため、枝分かれの多い構造になっています。
枝分かれの決め手となる遺伝子の発見
臓器ができるとき、なぜこのような枝分かれの現象が起こるのでしょうか。これは唾液をつくる「唾液腺」の研究から、解明されようとしています。
マウスの胎仔の唾液腺を人工培養し、枝分かれの裂け目にある細胞と、裂け目以外のところにある細胞の遺伝子を調べました。すると、裂け目のできるところに「Btbd7」という遺伝子が見つかったのです。発見されたこのBtbd7は、唾液腺や肺などの枝分かれを制御する遺伝子であることが明らかになりました。つまりBtbd7は、臓器の形成に関わっているのです。このことはアメリカ科学誌『サイエンス』などで発表され、世界中から注目を集めました。現在は国内・国外の複数の研究機関で共同研究が進行中です。
臓器再生のカギは枝分かれのコントロール
枝分かれのメカニズムの一端が解明され、臓器を人工的につくれる可能性が高まりました。しかし、さらにクリアすべき課題があります。それは枝分かれによる臓器の発達を調整することです。唾液腺は、ある程度大きくなると成長が自然に止まるのですが、それが何らかの物質の化学的な作用によるのか、周囲の組織から受ける物理的な圧力によるのか、まだわかっていません。そのまま増殖し続けると、腫瘍に変化する恐れがあるので、発達を必要なタイミングで止めて枝分かれを制御できれば、唾液腺や腎臓、肺などの臓器を人工的につくり、再生医療に生かすことも夢ではなくなるでしょう。
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大阪大学 歯学部 顎口腔機能治療学講座 教授 阪井 丘芳 先生
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