大腸菌がエネルギー問題を解決する?
クリーンエネルギーとして注目される水素
あと100年で枯渇するとも言われる石油資源や、原発廃止にともなう再生可能エネルギーへのシフトなど、エネルギー問題は未来への大きな課題です。そして、石油に代わる資源として期待されているのが水素(H₂)です。水素と酸素(O₂)を化学反応させて電気をつくる「燃料電池」の燃料として、クリーンエネルギーの元となるものだからです。しかし現在の水素をつくる方法の主流は、石油や天然ガスなどを改変するもので、石油資源に依存する点では変わりません。そこで注目されているのがバイオマスを使ったものづくり、ホワイトバイオテクノロジーで水素をつくる方法です。
水素生成能力を高めた大腸菌で水素をつくる
具体的には、研究実験で身近に使用する大腸菌を使って水素をつくろうというものです。水素生成能力を向上させるために、大腸菌が持つ水素を消費する機構を破壊したり、水素をつくる経路や水素生成に関わる遺伝子群を活性化したりなど、大腸菌に5つの細工をすることで水素ガスの生成能力が大幅に向上した大腸菌株が作製されました。元の大腸菌と比較して141倍の水素生成率を達成し、ギ酸1モルから水素1モルを生成する100%のポテンシャルを実現しました。またグルコースからの水素生成でも、8つの細工をすることで、従来の5倍の水素生成能力を発揮させることに成功しました。
実用化の課題はコストを下げること
標準家庭の1年間の電気代を10万円として、そこで消費される電気を燃料電池で生成し、必要な水素を大腸菌でグルコースからつくるとして試算すると、約50万円かかります。今後の課題は、いかにコストを下げるかです。そのためには、大腸菌の遺伝子機能の解明を進めて水素生成能力をより高めることと、さらに下水汚泥などのゴミを原料化するなど、いかに安い原料を使うかです。実現すれば、バイオテクノロジーを使ったコンパクトな燃料電池の装置をつくることも可能になります。大腸菌がつくる水素社会も夢ではないのです。
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先生情報 / 大学情報
九州工業大学 大学院生命体工学研究科 生体機能応用工学専攻 教授 前田 憲成 先生
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