新たな敵「コムギいもち病」から小麦を救え!
小麦を全滅させる新病「コムギいもち病」
「コムギいもち病」は、感染したエリアのコムギの収量がゼロになってしまう、恐ろしい病気です。この病気が40年前にブラジルで突然発生し、南米からアジア、アフリカにも広がっています。農薬を使って感染の拡大を防ぐこともできますが、費用がかかることや環境への負荷が大きいことから望ましい方法ではありません。そこで、この病気に強い品種の育成が進められています。
抵抗遺伝子を特定して導入する
植物は、病原菌の侵入を感知すると、侵入された細胞を殺して感染の拡大を防ぎます。侵入を感知するのは、その病原菌に対する抵抗遺伝子です。「コムギいもち病」の感染が拡大してしまったのは、農場で栽培されている小麦品種が抵抗遺伝子を持っていないためです。「コムギいもち病」は新しい病気なので、抵抗遺伝子がわかっていませんでした。そこで、多様性の高い野生の小麦集団を感染させて、生き残ったものの遺伝子を調べて抵抗遺伝子が特定されました。この抵抗遺伝子を持つ品種を日本の栽培品種と交配させて、「コムギいもち病」に強い品種が育種されています。遺伝子組み換え技術とゲノム編集技術を使って抵抗遺伝子を導入することも可能で、世界各地で応用が試みられている段階です。
抵抗性遺伝子の仕組みを解明する
病原菌は植物に見つからないように小さなタンパク質を送り込み、植物の免疫機能を弱らせて自分が感染しやすい状況を作ります。一方、植物はセンサーである抵抗性遺伝子を発達させて、病原菌の侵入を見つけようとします。センサーが何を認識したら病原菌と判定して抵抗性を引き起こせるのか、その仕組みを解明しようと、植物の抵抗遺伝子と病原菌が送り込む物質の相互作用が盛んに研究されています。この機構がわかると、抵抗性遺伝子を人間がデザインできるようになります。新しい病原菌が発生しても、分子レベルでセンサーを改良して植物に組み込めれば、抵抗性の高い品種の育成が迅速に行えるようになるのです。
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先生情報 / 大学情報
神戸大学 農学部 生命機能科学科 助教 足助 聡一郎 先生
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先生への質問
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